わかれ『みち』は意外な場所に
条件「み」「ち」「ぢ」を使ってはならない。
(5月23日がラブレターの日、キスの日だったので、お題は「ラブレター」「キス」)
放課後、同じ学年の美少女が先輩を体育館裏に呼び出しているのを目撃してしまった。渡すつもりだったラブレターをかばんの中に押し込んで、学校を飛び出す。
家に帰りたくなくて住宅街の公園で時間を潰していると、虫眼鏡を握りしめた男の子に出会った。どうやら、虫眼鏡で日光を集めて火をおこす実験をしたいらしい。失恋でやさぐれているのに邪険にできないのは、どことなく彼が先輩に似ているからだろう。
今時の幼児は賢いんだなあと感心しながら、私はラブレターを差し出した。どうせ捨てようと思っていたものだし、男の子の学習のために燃やされるのなら、ラブレターも本望のはず。
それなのに男の子は、絶対に燃やすなと言い始めた。それどころか、しっかりと相手に届けるべきだという。いやいや、あんなに可愛い女の子が告白した後にこんなもの渡せるか。ふたりに笑われるだけだ。
きっぱり断ると今度は男の子がしくしく泣き始めた。通行人はひそひそとなにごとか言いあっている。やめてくれ、幼児を泣かせるなんて世紀の極悪人じゃないか。このままじゃ、不審者として通報されてしまいそうだ。
***
仕方なくラブレターを渡すことを承諾すると、天使な顔で笑いやがった。勢いよく指切りげんまんをされる。なんだ、こいつ。嘘泣きか。
「あれ、何しているの?」
「え、あ、えと、あの、先輩、これ!」
たまたま通りがかったらしい先輩にラブレターを押しつけると、私はこれ幸いと逃げ出した。例の美少女は隣にいなかったようだが、家の方向が異なるのだろうか。まあ、いいや。
とりあえず義理は果たした。後のことは知らん。まったくどう育てたら、あんな風になるんだか。親の顔を拝ませてもらいたいくらいだわ。
***
「はあ、そういうことか」
そんな出来事など記憶の彼方。ところがある日、唐突に理解した。
「どうしたの?」
「いや、分岐点って本当にあるんだなあと。あと、親の顔を良く観察しておこうと思って」
「今日もイケメンだろ?」
「あー、まったくもう、大好き!」
好奇心旺盛で活動的。虫眼鏡を持って、光について研究すると張り切っている息子の後ろで、私は夫となった先輩の頬にひとつキスをした。




