あなたに愛の『こくはく』を
条件:「こ」「ご」「く」「ぐ」「は」「ぱ」「ば」を使用してはならない。
この作品は、「婚約破棄され命を落としました。未練を残して死ぬと魔王が生まれると言われてやり直していますが、私の心残りは叶わぬ恋の相手であるあなたです。」(https://book1.adouzi.eu.org/n0386ib/)のif、バッドエンド、死ネタです。大丈夫なかた、お楽しみください。
やり直しの機会が与えられてから、一体どれだけの時間が過ぎたのでしょうか。また今日も仕損じて息絶えた私に、天使さまが小さなため息をもらしました。
「どうしたらいいのだろう。ただ、君に天に昇ってほしいだけなのに」
「一瞬ですから、死んでも痛みなどありませんのよ。お気になさらずとも大丈夫ですから」
そのまま嗚咽を漏らす天使さま。ぽろぽろと涙をあふれさせる天使さまときたら、本当にお綺麗なのです。けれど、涙とともに生気が抜け落ちているように見えるのが気にかかります。銀の髪もなんだかすっかり紫に染まってしまったよう。
あら、天使さまに不敬でしたわ。清らかで誰に対しても平等な方々が、私ひとりに肩入れするわけありませんもの。ああ、私が間抜けで愚かだから、天使さまのお望みを叶えられないのでしょうか。
「天使さま、どうぞお嘆きにならないで。次回必ず、希望通りの結末を迎えてみせますわ。誰もが幸せになる素敵な未来です。だから元気を出して」
「わたしが悪かったんだ。もうやり直しなんてやめよう」
天使さまったら、冗談でしょう? やり直さないと、魔王が生まれてしまうのでしょう? やり直しを諦めてしまったら、その時点で天使さまとお別れなのでしょう? そんなの寂しすぎますもの。
「頼む、どうか許してほしい」
「許せと言われても、最初から感謝しかありませんのに」
決して歳をとらない天使さまだというのに、なぜだか年老いてみえます。どうにもお疲れみたい。だから、今決めました。今日ですべてを終わりにしましょう。
「かわいそうな天使さま。私が、大切なかたを悲しませるとでも?」
「どうしても愛している彼を忘れられないと?」
「おかしな天使さま。私が好きなひとなんて決まっていますのに」
隣にいられるだけで幸せだと思っていたのに。どうしてかしら。無性にあなたを傷つけたいの。
いっそ私と一緒に、世界から消えていただけないかしら。そんな叶わぬ望みを抱き、頬に手を添えて天使さまを引き寄せます。
「お会いしたときからずっとお慕いしておりました」
「……なにを言って」
「私の好きなひとを勘違いされたままなんて嫌なのです。天使さま……いいえ、司祭さま。さあお望みどおり、おしまいでしてよ」
返事を待たずに、天使さまが帯びていた剣を取り上げました。
あらいやだ、私が言うのもなんですが、天使さまったらぼんやりしすぎですわ。
「待つんだ! ローラ!」
とびきりの笑顔のまま、剣で自らの胸を貫きました。
ああ、なんて素敵なお顔をしていらっしゃるの。それだけで私、一等幸せですわ。
禁忌とされる自死を選んだせいでしょうか。突然世界が暗転し、雷鳴がとどろきました。まるで天使さまが私の死を嘆いているみたい。まさか、だってあなたが終わりを望んだのに。
ああ、叶うならその名を呼んでみたかった。愛しいひと、さようなら。
補足(ネタバレ要素を含みます)
「婚約破棄され命を落としました。未練を残して死ぬと魔王が生まれると言われてやり直していますが、私の心残りは叶わぬ恋の相手であるあなたです。」の天使の名前は、「バージル」。
この作品での使用禁止文字は、「こ」「ご」「く」「ぐ」「は」「ぱ」「ば」。この世界線では、絶対に名前を呼ぶことはかなわないのでした。




