58/73
『ほし』さえ見えぬ夜ならば
条件「ほ」「ぼ」「ぽ」「し」「じ」を使ってはならない。
眠れない夜は、部屋を片付けるに限る。それが台所なら、なお都合がいい。
マグカップにこびりついた珈琲や紅茶の汚れ。小皿の角にこびりついた黄ばみ。水切りかごのぬめり。面倒くさいすべてを、漂白剤で一気に洗い流す。
ただただひたすらに鍋をこする。鏡のようになるまで磨き続けたなら、鍋の底の向こう側には明るい未来が見えるだろう。
ぴかぴかになったカトラリーは、よそいきの顔で戸棚に並んでいる。疲れ果てた己は、そのくすみひとつない姿に安らぎを得るのだ。
さあ、もうおやすみなさい。
朝になればまた、生まれたてのあなたが待っている。




