『あまおと』は聞こえない
条件「あ」「ぁ」「ま」「お」「ぉ」「と」「ど」を使ってはならない。
精霊は、自由で無邪気で純粋で、仕方のない生き物だ。だから僕は、精霊が嫌いだ。
幼児のように小首を傾げる君を視界に入れないようにし、僕は吐き捨てた。
「即刻、国から出ていくがいい。そなたがそなたでい続けられるうちに」
「もう、私はいらないの?」
「いらない。必要ない」
ぎこちない表情の僕を見て、君はくすくす笑う。
「うそつき。私がいなくなったら、この国は砂漠になっちゃうのに。みんな、飢えて死んじゃうよ。それが嫌で、私を探していたじゃない」
そうだ。僕は精霊を捕獲する意味を知らなかったんだ。いいや、知っていて見ないふりをした。たくさんの命が助かるのなら……、そう考えていた。
「これ以上、力を使うんじゃない! 誰かの願いを叶えるたびに、君はぼろぼろになっていくじゃないか」
長い髪は千切れ、華やかだった羽衣はもはや肌着のよう。
「頼む、君が君でいられるうちに、ここから出ていってくれ」
ぱちん。何かが弾けるのがわかった。
「いらないのなら返してもらうわね」
「……そう、だな」
彼女の好意につけこんで、存在が擦りきれるくらい、力を使い込んだ。しっぺ返しも来るだろう。それでも、罪はこの身だけにしてほしい。
「僕は、ただ君が好きだった。自由な君を見ているだけで幸福だった。もう、人間の声に耳を貸すんじゃないよ」
さようなら。別れを告げる直前、くらり、意識を失った。
気がつけば、僕は人間の体を捨て、彼女の故郷へ旅立っていた。
「なぜだ、君は……」
「だって、好きなんだもの。国も無事だから、心配しないで」
そう言って短い髪をなびかせ、艶やかに笑う。底抜けに君は優しすぎる。
精霊は、自由で無邪気で純粋で、仕方のない生き物だ。だから、僕は彼女が心から大切なのだ。




