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リポグラム短編集〜『あい』を失った女〜  作者: 石河 翠@11/12「縁談広告。お飾りの妻を募集いたします」


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『あまおと』は聞こえない

条件「あ」「ぁ」「ま」「お」「ぉ」「と」「ど」を使ってはならない。

 精霊(せいれい)は、自由(じゆう)無邪気(むじゃき)純粋(じゅんすい)で、仕方(しかた)のない()(もの)だ。だから(ぼく)は、精霊(せいれい)(きら)いだ。


 幼児(ようじ)のように小首(こくび)(かし)げる(きみ)視界(しかい)()れないようにし、(ぼく)()き捨てた。


即刻(そっこく)(くに)から()ていくがいい。そなたがそなたでい(つづ)けられるうちに」

「もう、(わたし)はいらないの?」

「いらない。必要(ひつよう)ない」


 ぎこちない表情(ひょうじょう)(ぼく)()て、(きみ)はくすくす(わら)う。


「うそつき。(わたし)がいなくなったら、この(くに)砂漠(さばく)になっちゃうのに。みんな、()えて()んじゃうよ。それが(いや)で、(わたし)(さが)していたじゃない」


 そうだ。(ぼく)精霊(せいれい)捕獲(ほかく)する意味(いみ)()らなかったんだ。いいや、()っていて()ないふりをした。たくさんの(いのち)(たす)かるのなら……、そう(かんが)えていた。


「これ以上(いじょう)(ちから)使(つか)うんじゃない! (だれ)かの(ねが)いを(かな)えるたびに、(きみ)はぼろぼろになっていくじゃないか」


 (なが)(かみ)千切(ちぎ)れ、(はな)やかだった羽衣(はごろも)はもはや肌着(はだぎ)のよう。


(たの)む、(きみ)(きみ)でいられるうちに、ここから()ていってくれ」


 ぱちん。(なに)かが(はじ)けるのがわかった。


「いらないのなら(かえ)してもらうわね」

「……そう、だな」


 彼女(かのじょ)好意(こうい)につけこんで、存在(そんざい)()りきれるくらい、(ちから)使(つか)()んだ。しっぺ(がえ)しも()るだろう。それでも、(つみ)はこの()だけにしてほしい。


(ぼく)は、ただ(きみ)()きだった。自由(じゆう)(きみ)()ているだけで幸福(こうふく)だった。もう、人間(にんげん)(こえ)(みみ)()すんじゃないよ」


 さようなら。(わか)れを()げる直前(ちょくぜん)、くらり、意識(いしき)(うしな)った。


 ()がつけば、(ぼく)人間(にんげん)(からだ)()て、彼女(かのじょ)故郷(こきょう)旅立(たびだ)っていた。


「なぜだ、(きみ)は……」

「だって、()きなんだもの。(くに)無事(ぶじ)だから、心配(しんぱい)しないで」


 そう()って(みじか)(かみ)をなびかせ、(つや)やかに(わら)う。底抜(そこぬ)けに(きみ)(やさ)しすぎる。


 精霊(せいれい)は、自由(じゆう)無邪気(むじゃき)純粋(じゅんすい)で、仕方(しかた)のない()(もの)だ。だから、(ぼく)彼女(かのじょ)(こころ)から大切(たいせつ)なのだ。

遥彼方さま(https://mypage.syosetu.com/828137/)のフリーイラストをお借りしています。

この話はこちらのイラストをもとに書いております。


挿絵(By みてみん)

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