『こうぶつ』には敵わない
条件:「こ」「ご」「う」「ふ」「ぷ」「ぶ」「つ」「っ」を使用してはならない。
取引先への手土産を準備しておいてくれ。
会社で買い物を頼まれた。昼休みにデパ地下へ行けば、なぜか和菓子ばかりが目に入る。
もなか。
ゆべし。
いやいや、会社で頼まれたものはとある銘菓。
あちら様が大変お好きな焼菓子だ。和菓子は、買い物リストにはない。
みたらし。
ちまき。
だめだ、頭から離れない。
食費には確かにまだ余りがある。とはいえ、食べ過ぎはよくない。
かしわもち。
すあま。
さらに迫りくる甘味たちに、私は白旗をあげた。
「あのねえ、食べたいのはわかるけれど、時と場所を選んでほしいわ」
帰宅するなり、父の部屋に行く。もちろん、父からの返事はない。やれやれ、お礼くらいちゃんと言いなさいね。
おみやげのぼた餅をあげて部屋を出る。すぐに、ケースを開ける音がした。
娘の話など気にも留めず、その甘さに酔いしれているはずだ。
仕方のないひとだ。
昔から全然変わらない。長年制限されていた甘いものが解禁をむかえたとはいえ、はしゃぎすぎな気がする。
しばらくしたら、下げに戻ればいいかしら。その間に遅めの食事の支度をしておくとするか。また大笑いするしかないほど味が消えたぼた餅が、りんの隣に置かれているにちがいない。




