表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リポグラム短編集〜『あい』を失った女〜  作者: 石河 翠@11/12「縁談広告。お飾りの妻を募集いたします」


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/73

『アルコール』が抜けたなら

条件:「あ」「る」「こ」「お」「る」「ぁ」「ご」「ぉ」を使用してはならない。

 他人(たにん)()かって(なに)(はな)しかけて()いかわからないから、(むかし)から(やす)時間(じかん)苦手(にがて)だった。


 授業時間(じゅぎょうじかん)授業(じゅぎょう)について(かんが)えていればいい。

 委員会(いいんかい)もクラブ活動(かつどう)も、自分(じぶん)割振(わりふ)られた役割(やくわり)(にな)えばいい。


 けれど、(やす)時間(じかん)は「自由(じゆう)」だ。「自由(じゆう)」が苦痛(くつう)だなんて、きっと(だれ)にもわかってもらえないだろうけれど。


 成人(せいじん)してから、(さけ)(ちから)()った。魔法(まほう)みたいな不思議(ふしぎ)()(もの)視界(しかい)(ゆが)む。(まわ)りと自分(じぶん)境界線(きょうかいせん)がとけていく。


 だから、みんなの視線(しせん)緊張(きんちょう)なんてしない。(わら)う。(はな)す。(うた)う。どんな無茶(むちゃ)ぶりも平気(へいき)になった。


 それでもやっぱり()(かい)(はじ)まりはしんどいから、一番(いちばん)最初(さいしょ)(さけ)()()す。()んで、()んで、(まわ)りが(ゆが)んでしまうまで。幻想的(げんそうてき)回転木馬(かいてんもくば)()まったら、きっと周囲(しゅうい)はがらくたの世界(せかい)だと()がついてしまうから。


 今日(きょう)()(かい)(とく)()がのらない。そういう(とき)は、()会前(かいまえ)でも魔法(まほう)使(つか)えばいい。


 ()()()()ベンチに(すわ)り、(ちい)さくため(いき)をつく。()(なか)にはさっき()ったばかりのストロングゼロ。そのまま一息(ひといき)()()せば、景色(けしき)輪郭(りんかく)をにじませていくだろう。


 魔法(まほう)使(つか)()ぎはよくないんだけれどね。(ちか)くの物陰(ものかげ)には、魔法使(まほうつか)いの()れの()てたち。(かれ)らは、もしかしたら(だれ)より真面目(まじめ)なひとたちだったのかもしれない。


「ねえ、ちょっと最近(さいきん)()()ぎじゃない」


 (かん)(くち)をつけようとしたその(とき)(ひび)いたのは()んだソプラノ。


 ()(まえ)には、なんともド派手(はで)少年(しょうねん)がひとりきり。(かみ)()(いろ)なんて、漫画(まんが)みたいな二色染(にしょくぞ)めだ。けれど、それが不思議(ふしぎ)ほど馴染(なじ)むのは、その(かんばせ)人形(にんぎょう)のように(ととの)っていたからだろう。


 (そと)(くら)くなってから()かけては危険(きけん)だよ。そう()いかけて少々(しょうしょう)戸惑(とまど)う。


 虐待(ぎゃくたい)。ネグレクト。児相(じそう)脳内(のうない)でショッキングな字面(じづら)渦巻(うずま)いたけれど、うまく(かんが)えがまとまらない。


 結果的(けっかてき)無視(むし)してしまった(わたし)(はら)をたてたのか、いきなり顔面(がんめん)(なに)かをかけられた。まさかの水鉄砲(みずでっぽう)。しかも()具入(ぐい)りだ。可哀想(かわいそう)少年(しょうねん)なものか、まったくとんだクソガキときたものだ。


「……!」


 悲鳴(ひめい)怒声(どせい)()ず、ただ(わたし)()から(なみだ)がつたう。


 もう、勘弁(かんべん)してよ。()()をつけたまま()(かい)参加(さんか)しても、急用(きゅうよう)ができたと欠席(けっせき)しても、ろくでもない未来(みらい)しか想像(そうぞう)できなくて愚痴(ぐち)()く。


「ねえ、もっとわがままに()きなよ。そんな(ふう)にしていても、(たの)しくないでしょ?」

「わかったような(くち)をきかないで」

(きみ)(きみ)のままが一番(いちばん)だよ」


 蓄積(ちくせき)していた不満(ふまん)がもう()まらない。年端(としは)もいかない少年(しょうねん)(なに)を……そう()がついた(とき)(わたし)はまたベンチでひとりぼっちだった。


()()ぎた……?」


 いや、()()今日(きょう)魔法(まほう)未使用(みしよう)のはずだ。


 (かれ)にかけられたはずの色水(いろみず)()え、いつの間にか(やわ)らかな(はな)びらだけがくっついていた。(くび)(かし)げていたら、官能的(かんのうてき)なほどの(かぐわ)しさに(みちび)かれて()がつく。


 主張(しゅちょう)してきたのは源平咲(げんぺいざ)きの(うめ)(はな)。ひとつの()紅色(べにいろ)白色(しろいろ)それぞれの(はな)()くと()えば耳障(みみざわ)りはよいが、実際(じっさい)には(とし)によって紅色(べにいろ)ばかりさいたり、白梅(はくばい)ばかり()いたり。存外(ぞんがい)わがままな(はな)だ。


 (うめ)()らしく、(えだ)(みき)()勝手(かって)にねじれていて、しかもそれが(めず)しく左巻(ひだりま)きなものだから、どうにもさきほどの(かれ)らしくて(わら)ってしまう。


 ――()きてさえいれば。すべて自分(じぶん)(ねが)うがまま――


 空耳(そらみみ)がして、(わたし)()()す。(たし)かにそうだね。()まずにいた(さけ)を、()んだように()じろぎもしない人影(ひとかげ)()()した。


 大丈夫(だいじょうぶ)世界(せかい)(うつく)しいから。もうちょっとだけ頑張(がんば)ってみようか。(うめ)(はな)びらに(くち)づけて、夜空(よぞら)にそっと()ばしてみた。

こちらの作品は、貴様二太郎さんのフリーイラストからイメージして執筆しました。


「思いのまま」(別名「輪違い(りんちがい)」)は、紅白または絞りを一本で咲かせる梅の品種。ただし、毎年同じところに同じ色が咲くとは限らない。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ