「やまい」などなく、ただ健やかな
条件:「や」「ゃ」「ま」「い」「ぃ」を使用してはならない。やまいだれの漢字を使用してはならない。
お隣の奥さんは、素敵な奥さんだ。ほら、ごらん。今日も糊がつけられた純白の敷布が、ひらひらとお庭の物干し竿で風にはためくのが見えるだろう。
朝は手作りのパンが食卓に並ぶ。パンにつけるのはもちろん季節の果物を使った手作りのフルーツスプレッド。先日、偶然ご相伴にあずかったが、流石の一言だった。物産展で買ってきたような上品さ。
当然、昼食、夕食、お菓子にだって奥さんは気を配る。市販のレトルト、スナック菓子、ケータリングなんてもってのほかだ。健康で安全な、正しさに満ちあふれた食事。
ご自宅は常に完璧。急に訪ねてみても、玩具ひとつ転がりもせず。凝ったテーブルセンターに、薄手のガラスの花瓶に飾られたとりどりの花が目を惹く。北欧の小物がセンスよく散りばめられた、テレビすら消えた絵本のようなリビング。
そんな素敵なお宅の息子さんは、今日も私の横でリラックス中。我が物顔で、ポテトチップスを貪りながら、ゲームとコミックスを堪能するず太さだ。
寝転ぶと目が悪くなるからせめてソファに座って。こら、お菓子を食べながら本は読むものなの? ジュースを飲みながらうろうろしてはダメだったら! 勝手に戸棚を開けてラーメンを出すのは禁止よ。ほら、さっさと勉強をする! 本当に、動物園のよう。
カーテンの向こう側、ドールハウスにも似たお家。お隣の奥さんは今日もテラスでひとり、静かに顔を綻ばせる。




