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リポグラム短編集〜『あい』を失った女〜  作者: 石河 翠@11/12「縁談広告。お飾りの妻を募集いたします」


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去り行く『へいせい』に哀惜を

若松ユウ様に捧ぐ


条件:「へ」「い」「せ」「べ」「ぜ」を使用してはならない

「ヤバっ、え、マジっすか。つまり(おれ)たち、五月(ごがつ)からはおっさんってことっすか?」


 町役場(まちやくば)のフロアには、(なん)とも能天気(のうてんき)(こえ)(ひび)く。わたしは無駄話(むだばなし)(きょう)じる(かれ)尻目(しりめ)に、上司(じょうし)とともに資料(しりょう)(そろ)えることに集中(しゅうちゅう)した。こうしておけば(はら)(そこ)でどんな(どく)()こうとも()()だけは完璧(かんぺき)OL(オーエル)出来上(できあ)がりだ。


 あんたがおっさんなら、さしずめわたしはおばあさんってところかしらね。そんな(ふう)にちくりとやりたくなるのをぐっとこらえる。だってわたしはお局様(つぼねさま)だもの。わざわざ自分(じぶん)から何か行動(こうどう)して、ドS(エス)だの、年下(としした)をなぶって(よろこ)女王様(じょおうさま)だのからかわれる羽目(はめ)になるのはごめんこうむる。


 それに(だれ)からも()かれる大型犬(おおがたけん)もどきな(かれ)(かか)わると面倒(めんどう)なことになる。あんな役所勤(やくしょづと)めらしからぬ言葉(ことば)でさえ、上司(じょうし)からのお(しか)りも利用者(りようしゃ)からのクレームも()けずにのうのうと()ごす(かれ)。それがまた無性(むしょう)(はら)()つのだ。


 (とし)だって本当(ほんとう)はほとんど(おな)じ。それなのにこんなにも(かれ)との距離(きょり)(かん)じてしまうのはわたしの(ひが)みなのかしら。それとも、元号(げんごう)マジックとやらの効果(こうか)がこんなところにもあるのかも。


「じゃあよろしく(たの)むよ。この()りは(かなら)(かえ)すから!」


 上司(じょうし)言葉(ことば)に、(あわ)てて思考(しこう)(もど)す。フルムーン旅行(りょこう)にでかけるつもりだったのに、休出(きゅうしゅつ)なんてしたらさすがに離婚(りこん)危機(きき)だと(あお)ざめる上司(じょうし)()つけたのは数時間前(すうじかんまえ)。その()わりとしてわたしは(みずか)名乗(なの)りを()げた。本当(ほんとう)(たす)かったと(あたま)()げる上司(じょうし)姿(すがた)に、(わたし)(かた)をすくめほんのり苦笑(くしょう)する。


 (じつ)のところ、連休(れんきゅう)をもらえたところで、寝正月(ねしょうがつ)ならぬ寝黄金週間(ねおうごんしゅうかん)になるだけだ。家族(かぞく)()ちの上司(じょうし)にこそ(やす)みが必要(ひつよう)だろう。ここ数日(すうじつ)でさらにすすけた上司(じょうし)頭部(とうぶ)(みょう)にわたしの()にしみる。


 それにしても元号(げんごう)初日(しょにち)が、まさかこうなるとは。カレンダーを確認(かくにん)しつつげんなりする。仏滅(ぶつめつ)友引(ともびき)ならば()かったのになんて(おも)うのは、不謹慎(ふきんしん)だろうか。(おも)ったよりも六曜(りくよう)左右(さゆう)されるわたしの仕事(しごと)。なんだかんだで縁起(えんぎ)をかつぐ日本人(にほんじん)律儀(りちぎ)さに()みが()れる。


「そうそう、ひとりだとアレだろうし(すけ)()()んでるから」


 (なん)とも()()上司(じょうし)は、ともに休出(きゅうしゅつ)してくれる人間(にんげん)まで()つけてきてくれたようだ。感謝(かんしゃ)言葉(ことば)(おく)ろうとして、(おも)わずからだが(かた)まる。


 ちょっとちょっと、正直(しょうじき)これはナシでしょ。にっこりと(わら)(かれ)()(まえ)にして、わたしは密かに(あたま)(かか)えた。


 さも(うれ)しそうにわたしの(まわ)りにまとわりつく(かれ)。ちくちくとした無言(むごん)圧力(あつりょく)四方八方(しほうはっぽう)から()()さる。わたしだって、()きでこのひとと休出(きゅうしゅつ)になってるわけじゃあなくってよ。むしろ、結構(けっこう)頻度(ひんど)用事(ようじ)をずらしてたりもするのに。こちらの気持(きも)ちなど()がつくはずもなく、(かれ)はのんびりとわたしに(はな)しかける。


新元号(しんげんごう)初日(しょにち)結婚(けっこん)とかマジヤバっすよね」


 窓口(まどぐち)様子(ようす)(たし)かめてから、そっとうなずく。(かれ)(かんが)えもわかるが、さすがに(おお)っぴらに(はな)すのはアウトだ。それに、もともとお(まつ)()きの日本人(にほんじん)なのだ。(とど)()記念日(きねんび)にと(かんが)えるのもわかる。クリスマスや新年(しんねん)だって混雑(こんざつ)するのだ。元号(げんごう)(あらた)まるとなれば、相当数(そうとうすう)(もう)()みが予想(よそう)される。思わず頭痛(ずつう)(かん)じ、わたしはかぶりをふった。


 (はや)めに頭痛薬(ずつうやく)()んでおこうか。(すこ)しだけ(なや)んだわたしの(まえ)に、常備薬(じょうびやく)(かみ)コップにつがれたお(みず)がおかれた。


「しんどくなる(まえ)()んどきましょーよ」


 ()たり(まえ)のように(わら)ってケアしてくれる(かれ)(ほほ)(あか)くなったのを(かく)すように、正面(しょうめん)のパソコン画面(がめん)をチェックする。すると、(かれ)何気(なにげ)なくメモ用紙(ようし)手渡(てわた)して()た。


「でも、俺的(おれてき)にはこっちのほうがオススメなんすよね」


 どこか見慣(みな)れた数字(すうじ)は、わたしの誕生日(たんじょうび)元号(げんごう)(あらた)まった()から、数日後(すうじつご)日付(ひづけ)だ。


(おく)さんの誕生日(たんじょうび)(とど)()とか超基本(ちょうきほん)っしょ」


 (おも)わず(みず)()()したわたしにタオルを(わた)しながら、(かれ)はにこにこと言葉(ことば)(つづ)ける。こちらの様子(ようす)(うかが)上司(じょうし)は、(なに)やらにやけ(かお)だ。かたまるわたしを()()りにして、外堀(そとぼり)()められてゆく。結婚(けっこん)までのカウントダウンは、()がつけばすでに()わりぎわだったようだ。

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