『と』のない部屋、『もん』のない家
条件:部首に「と」、「とだれ」、「とかんむり」、「もん」、「もんがまえ」、「かどがまえ」を含む漢字を用いてはならない。
この家から、僕は出られない。それは僕が生まれた時からの決まりごとだった。そんな僕に外の常識を教えてくれたのは、父さんだ。気がついた時には姿を消していた父さんのことを、みんなは裏切者だと罵るけれど僕はそうは思わない。父さんには力がなかった。ただそれだけのことだ。
学校にも行かず、僕は一面を真っ白な壁に囲まれた部屋の中で目を瞑って座っている。
祖母も母も叔母も従姉妹たちも、ただ熱心に祈りを捧げていた。神様の依り代らしい僕に向かって。それ以外にもたくさんの人たちが僕に会い、救いを求めた。
けれど誰も僕自身に話しかけることはない。必要なのは僕の体であって、僕ではないのだ。本当に僕の中に神様の力があると言うのなら、僕はみんなを変えてしまうのに。父さんが話してくれたごく普通の優しい家族に。
願いが叶ったのか、ある日突然全てが終わった。
すべてを注ぎ込んだ神様とやらに、母は唐突に見切りをつけた。気狂いに見えた叔母たちもあんな日々などなかったかのように、平然と暮らしている。
あの頃の話は誰もしない。一度祖母に尋ねたが、嫌な顔をされたあげくに頬を酷くぶたれた。そのまま見知らぬ小さな部屋に押し込められている。でも、ここには空があった。目眩がするような高い秋の青空が僕を呼んでいる。
世界が変わる前もその後も、ただひとつ確かなことは、やっぱり僕はひとりぼっちだということだ。いやそれは言い過ぎか。いつだって父さんは、僕の側にいてくれたのだから。大事に抱えていた正方形の桐の箱を窓から放り投げ、そのまま僕も一緒に飛び降りてみた。ふわふわの鱗雲は、まるで羊が笑っているようにも見える。
と「戸」「戻」「所」「房」「扇」など
もん「門」「閉」「開」「間」「闘」「闔」など




