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リポグラム短編集〜『あい』を失った女〜  作者: 石河 翠@11/12「縁談広告。お飾りの妻を募集いたします」


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消えゆく『わをん』に口づけを

条件:「わ」「を」「ん」を使用してはならない

 それに()がついたのは、何故(なぜ)なのだろう。


 (きし)むベッドの(うえ)で、(おっと)はいつも(どお)り。おかしなところなど何一(なにひと)つなかったはずなのに。()いていうならば(つま)洞察力(どうさつりょく)だろうか。今更(いまさら)理由(りゆう)づけがいかにも滑稽(こっけい)で、くつくつと(こえ)()れた。


 (はだか)(おっと)不思議(ふしぎ)そうな(かお)でじっと()つめて()る。(ぎゃく)(のぞ)(かえ)せば、どこか(まぶ)しそうに(すが)められた。(なに)()いかけた(おっと)(くちびる)などふさいでしまおう。(いま)(あえ)(ごえ)以外(いがい)()きたくもない。


 (あま)すところのないように、(すみ)から(すみ)までなぞってみる。もともと、(おっと)であることが不思議(ふしぎ)なくらいの美貌(びぼう)()(ぬし)(すで)(おっと)朱夏(しゅか)()ばれる(いき)(たっ)しているが、()いと(とも)相応(そうおう)色気(いろけ)()られるのだと()った。(くち)づけがぬるりと(あつ)い。


 たった一度(いちど)(あやま)ちくらいと、(ひと)()うだろう。けれど、理屈(りくつ)ではないのだ。どうして、(おっと)(べつ)女性(じょせい)(むつ)みあったのか。(だれ)かに()いてみたいとも(おも)ったが、結局(けっきょく)のところ、(おっと)(こころ)(おっと)にしか理解(りかい)できない。


 (おっと)(やさ)しくて、いい(にお)いのする、綺麗(きれい)で、(ひど)(おとこ)だ。(おっと)がいらないと()うのなら、(かたち)ばかりの(つま)など、(だれ)にくれてやったところで(おな)じことだろう。さよならと()えば、きっと(おっと)仕方(しかた)がないねとばかりに(さび)しそうに微笑(ほほえ)むだけ。嫉妬(しっと)し、(いか)(くる)い、あるいは()(くず)れて、()()められることなどないのだから。


 この世界(せかい)には、(なに)かが()りない。(うみ)()ちたのか、(やま)()められたのか。それすらもはっきりとしないのに、(むな)しさだけは日増(ひま)しに(おお)きくなっていく。(かさ)ねた身体(からだ)からは、むしろ(まえ)よりも隙間(すきま)目立(めだ)つ。()りない(おと)()えた(いろ)物書(ものか)きにも絵描(えか)きにもこの(さび)しさは()められない。


 (いた)(こころ)など()ててしまえ。どうせ明日(あした)この(むね)(かぎ)()えてなくなる。

 ()くところに()けば、(はな)のないこの()にだって需要(じゅよう)はあるのだ。見知(みし)らぬ(おとこ)に向かって、しどけなく微笑(ほほえ)みかける。ああ、夜明(よあ)けの薄紫色(うすむらさきいろ)(そら)(うつく)しく、あなたは()てし()(とお)い。

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