上陸作戦1
ミャウシア海軍は海峡の戦いの後、内海に進出し連合国へ侵攻するミャウシア派遣軍との合流を目指した。
一方、タルル将軍にとっての敵性部族出身将兵をまとめ、連合国侵攻に当てられたミャウシア派遣軍では、フニャンのラジオ放送に呼応して反乱が発生しタルル派やニャーガ族の将校が一掃され、全軍がグレースランド領内の港を目指して移動を開始する。
連合国は占領地域の返還の合意が得られたことからこの動きを黙認し、ミャウシア海軍の受け入れにも応じた。
こうしてミャウシア海軍とミャウシア派遣軍が合流し、ミャウシア解放軍が結成されることとなる。
総兵力は陸海合わせ400万人以上の大軍だ。
クーデターを起こしてミャウシアを支配したタルル将軍が率いるミャウシアクーデター軍はこの動きに対して手薄な南部にできる限り兵力を展開して迎え撃つ準備を進めた。
そしてミャウシア解放軍は第一次作戦部隊を速やかに編成し時間を置かずに上陸作戦を発動するのだった。
<<とある海岸線>>
雲に覆われた天気の優れない日だった。
海は少しばかりしけっていて砂浜に並が多少打ち付けている少し寒々とした景色であり、観光に全く向かない見栄えのない風景だった。
そんな海岸から見える海の水平線から徐々に黒い点の群れがびっしりと姿を表し始める。
黒い点は徐々に大きくなり肉眼でもそれが変わった形の小型船であることが見て取れるようになった。
小型船の大群はどんどん海岸線に近づいくいき、あるところから小型船の周りに水柱が爆音と共の現れた。
小型船は海岸から砲撃を受けているのだ。
船内には猫耳の兵士が多数つめていた。
「上陸1分前!」
「いい?予定通りタラップが下りたら左舷と右舷に散れ。散ったら集結ポイントまで固まるな!敵は1人より3人以上を優先して狙うわ。下りたらそれを留意して全力で砂浜を駆け抜け集結ポイントへ向かえ!」
「くそ、この海岸にはまともな兵力の敵がいないんじゃなかったのかよ!」
小型船は上陸用舟艇であり、前方のタラップを開けることで海岸に下りて上陸することができる。
上陸用舟艇には一個小隊が詰め込まれているが各員の表情は冴えなかった。
乗っていた半数が船酔いを起こしており中には食べた昼食を吐き戻すものが跡を絶たなかったのだ。
しかも近くを走行していた上陸用舟艇が敵の対戦車砲の砲弾が直撃し、爆発炎上した。
それを見た兵士たちの緊張は武者震いと合わさって最高潮に達し、表情などに気を止めるものはいなかった。
上陸用舟艇が何かに乗り上げて停止した。
「思いの外海岸が浅い。悪いけど少し海を歩いてちょうだい」
「だそうだ。タラップを降ろせ!」
ピーーーーッ!
笛の合図と共にタラップがハンドル操作で下りていく。
そして可愛げのある猫耳の兵隊たちは地獄に突入した。
バスン、バスバス!
カン!カンカンカン!
パシュン!パシュン!
ドガ、ドカ。
タラップを開けた瞬間、銃弾の雨あられが上陸用舟艇に降り掛かってきた。
先頭の兵士からドミノ倒しのように次々被弾して倒れていく。
完全に地獄絵図だった。
海岸の高台には多数の重機関銃陣地が張り巡らされ、トラ模様の髪をした猫耳兵士がミャウシア陸軍主力弾薬の5.5x50mm弾を使用するSG-43重機関銃に酷似した機関銃を駆使し、上陸部隊に猛烈な砲火を浴びせる。
ダダダダダダダダダダダダダダダッ、ダダダダダダダダダダダッ!!!
ダダダダダダダッ、....ダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!
機関銃手の隣には弾薬ベルトがダマになったりつかえたりしないように弾薬ベルトを両手に持って調節する給弾手がいた。
機関銃手は銃身が焼けついてしまうくらいとにかく銃弾をタラップを開けた瞬間の上陸用舟艇や兵士の人だかりを照準器に捉えて叩き込んでいく。
「いけいけいけ!」
なんとか上陸用舟艇から出た、というより脱出した兵士たちが肩まで浸かりそうな深度の海を海岸目掛けて歩いていく。
先程まで上陸用舟艇で指示を出していた指揮官も脱出に成功し、自分の五体満足を思わず確認してから海岸を目指す。
「ミュール中隊長!各小隊大混乱です!どうすれば?!」
「高台の下まで行けって言ったでしょ!いいから移動しろ!」
兵士たちはずぶ濡れのなか腹まで浸る海水を掻き分けて進むがそれに比例して弾幕が激しさを増していく。
砂浜まで到着する頃には皆ほとんど体力を使っていて船酔いも合わさり走れるものはほぼ皆無だった。
砂浜に達するとそこにはおびただしい数の負傷者と死体が転がっていた。
そして周りの海水も少し赤みを帯びている。
しかも迫撃砲の砲弾も雨のように降っている。
向こうでは火炎放射器が引火してまとめて火だるまになる部隊もいた。
そんな戦場なのである。
中隊長はもたついている味方に駆け寄る。
「何してんの?高台の下まで行けって!」
「無理です。砂浜を歩いているうちに撃たれてあの世行きです!」
「後続部隊の道を開けないと大渋滞になる。そんなことしたら余計収拾がつかなくなわ!」
「でもあの弾幕じゃ...」
「砂浜はどこも機関銃の有効射程圏よ。前進している兵が全滅すれば敵の照準が一気にここ集まる。死にたくなかったら走れ!ラニャン曹長、第1、第2小隊の生き残りをまとめて高台の斜面に突貫しろ!」
「中隊長は?」
「あたしはもたついてる部隊をかき集めてくる。どこもかしこも指揮官不在よ!」
「了解。全員俺について来い、突撃!」
部隊は移動を開始し敵の弾幕に飛び込んでいき、中隊長は予想通り尉官も先任士官も全滅ししていた烏合の衆をかき集める。
途中迫撃砲弾の至近弾で吹き飛ばされたりもしたが何事もなく斜面手前の鉄条網手前まで五体満足にたどり着くことができた。
「曹長、状況は?」
「全くわかりません。各部隊完全に入り乱れてます。戦車は全部沖で沈んだらしく、どの部隊も防御線を突破できてません!」
「通信手!本部へ連絡。上陸部隊第一波、攻撃失敗。戦車全滅につき防御線突破できず!」
「中隊長、このままじゃ皆殺られます!」
「...爆破筒を持ってこい!全員突撃準備、武器弾薬を落としたやつは死体から剥いでこい!」
2、3人が長い筒状の物体を持って走ってくる。
爆破筒とは地雷処理や鉄条網の破壊に用いる長細い筒状の爆弾である。
地雷原でこれを爆破すれば地雷原に道を作れるし、鉄条網の下をくぐらせてから爆破すれば鉄条網を切断し破壊することができる。
今回は後者として使用する。
兵士たちが銃弾の雨の中、爆破筒を鉄条網に差し込んでいく。
「点火用意!.....点火!」
導火線に火が付けられ爆弾まで燃え走っていく。
そしてそこそこの爆発が発生し鉄条網が爆風で吹き飛んで切断された。
「突撃!」
上陸部隊の兵士たちが次々突破口に殺到していく。
もちろん的に集中砲火を浴びせないために煙幕も張ってカバーする。
周辺でなんとか銃撃をやり過ごしていた兵士たちがこぞって煙幕に突入し鉄条網を抜けて斜面に取り付き始めた。
敵としては一番嫌な状況に陥りつつあるのを自覚しているのか土嚢や蛸壺で構成された敵の機関銃陣地は攻撃を砂浜から斜面下へシフトしてく。
この砂浜を囲んでいる斜面は高く登るのに100メートルは要する。
瞬発力で優れるミャウシア人でもヘトヘトな今の状況では這い上がるのは難しかった。
なら火点を潰すしかないが戦車は沖で全部沈んでしまい軽火器しかない彼女らでは陣地を破壊する火力は持ち合わせていない。
「戦車がいればあんな陣地吹き飛ばしてやれるのに」
「ないものをねだってどうする。とにかく撃ちまくれ」
銃撃戦の中上陸部隊の狙撃手が機関銃手の頭部を狙撃し、撃たれた兵士が斜面を滑落したりするも代わりの兵士がバトンタッチするように機関銃に飛びつき銃撃を再開して埒が明かない。
そこで22mm小銃擲弾をかき集めて集中砲火を浴びせ、数発が機銃陣地に直撃し土嚢が崩れ幾人かの兵士が転げ落ちてくる。
もう戦えるはずはないが上陸部隊の兵士はやり返しとばかりに転げ落ちた兵士を蜂の巣にする。
その様子はかなりエグく、撃たれすぎて口からたくさん血を流す遺体もあった。
「登れ登れ!」
「いけいけいけ!」
突破口を開いた兵士たちはそこから斜面を這い上がり高台に突入する。
初めて目に入る海岸の上は以外に殺風景で既に事前攻撃で破壊されたトラックが数台燃えているのが目につくだけのただの野原だった。
しかしそこにはある程度まとまった数の敵兵が潜んでいるのが肉眼で見えた。
自分たちを砂浜に押し返そうと動いた予備兵力と見える。
突破口は狭く過密になったところを集中砲火を受け、左右に展開しようとした上陸部隊兵士たちがのけぞるように倒れて軒並み討ち取られてしまった。
「だめです!前に進めません!」
「時間をかけるな。敵が集まって手詰まりになる!」
「しかし....」
そこへドップラー効果の甲高くなったプロペラ音が聞こえ始めた。
ブオオオオオオオオオオオオ!!!!
シュウウウンンン、ズドズドズドオオオオオオオンンン
敵がいた稜線や草むらが吹き飛ぶ。
ブロオオーーーーン。
ドップラー効果で今度は低音になったレシプロ音をたてながら戦闘機が飛び去る。
戦闘機によるロケット弾攻撃だった。
また別の戦闘機が来ると今度は機関銃で機銃掃射を浴びせられた。
それらはミャウシア海軍のレシプロ戦闘機の編隊だった。
彼女らはグレースランド軍基地や航空母艦から戦闘攻撃機として出撃し、予想外の苦戦を強いられた海岸の味方を援護するために来援した友軍である。
「敵の陣形が崩れた!一気に押し出せ!」
「スモーク!スモークを投擲しろ!」
「走れええ」
突破口から雪崩を打つように上陸部隊が左右に展開を始めた。
完全に総崩れとなった海岸守備隊は上陸部隊に追い詰められ始めた。
守備隊はなんとか体制を立て直そうと防衛戦を張るも数で押し切られ、どうにもならなくなりついに退却を始める。
しかし障害物の少ない場所なので散り散りに走って逃げる敵を上陸部隊は銃撃して次々仕留めていく有様だった。
「連隊本部、こちら第3連隊の第1中隊隊長のミュール中尉。上陸地点確保。繰り返す上陸地点確保。.....了解。手を付けられそうな斜面を選定して上陸する工兵隊を誘導する」
中隊長は本部との通信を済ませると部下を集める。
「第3小隊は工兵隊の支援に回れ。第1小隊は本部守備隊に回る。残りは私に付いてこい。第2中隊、第3中隊をまとめてシュミャール村までの村道全てに防御線を張る。敵はどんどん部隊を送り込んでくる、時間との勝負だ。移動開始!」
中隊長がそう言うと皆動き出す。
その真上を戦闘機の編隊を組んで内陸へ飛び去っていく。
ミャウシア解放軍の上陸作戦が始まった。




