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大切な幼馴染と聖女を寝取られた少年、地獄の底で最強の《侍》と出会う  作者: 剣竜
第二章 勇者キルヴァへの復讐

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第二十八話 生きていた薔薇騎士

 


「これがあれば、ウチに従ってくれる人はいくらでもいるっすよ…」


 そう言って聖剣を鞘から抜くパンコ。

 その刀身の美しさに酔いしれながら。

 ゆっくりと構え、その剣の先をキルヴァに向けた。

 その剣に込められていたもの、それは明確な殺意だった。


「何の真似だパンコぉ…!」


「キルヴァさん、ウチを利用しようとしたっすよね?」


「く…ッ!」


「だからウチも利用させてもらったっすよ」

 

 聖剣に込められた強い狂気。

 パンコがその隠された本性を露わにした。

 これまでのことは全て過程でしかなかったのだ。

 彼女がこの聖剣を手に入れるまでの。


「キルヴァさん、こちらで調べさせてもらったっすよ。護人コロナさんの謀殺についてもね」


「貴様…!」


 いままでのパンコの喋り方から一変。

 どこかゆっくりとした語りから、流暢な喋りへと変わった。

 その言葉にはどこか以前の彼女には無かった知性も感じる。


「コロナさんが死んだと記録される三年前、各地で生存報告らしきものが上がってるんすよ」


「ッ…!」


「けどそれらは全て国が黙殺している。露骨っすよねぇ…」


 キルヴァたちに追放された直後。

 当時のコロナは各地で自身の生存を国に報告し続けた。

 それらはすべて黙殺された。

 しかし僅かな記録が消されず残されていた。

 逆に言えば、これらの証言は全て消さなければいけれない大事なことだった、ということだ。


「以前、レイスがその話題を出した時に露骨に態度を変えたっすよね?」


「それはッ…」


「さすがにバレバレっすよ」


 以前、王都のキルヴァの屋敷に招かれた時のことだ。

 レイスがコロナの話題を出した際、キルヴァは露骨に態度を変えた。

 同席していたノリンもだ。

 先ほどの消された資料とその態度。

 それらが揃えば、ある程度の察しはつく。


「キルヴァさんは仲間を裏切ってここまで来た…」


「くッ…」


「次はキルヴァさんが裏切られる番っすよ!」


 そう言うパンコ。

 この国有数の実力者。

 そして勇者でもあるキルヴァ。

 だが所詮は手負いの男。

 しかも今は聖剣を手放している。

 そんな者に、もはや価値は無い。


「この聖剣があれば、アンタはもう用無しっすよ」


「テメェ…」


「いいもの手に入った!」


 キルヴァから奪い取った聖剣。

 それを振り回しながら得意げにパンコが言う。

 聖剣さえ手に入れてしまえば後はこちらのモノ。

 そうとでも言わんばかりに。


「…いつからだ?」


「はい?」


「いつから考えを変えた?レイスを飛ばしたことが…」


「いつからって…『最初から』っすよ」


 パンコは最初からすべてを見抜いていた。

 彼がパンコの身体と家柄を目当てに近づいてきたことを。

 その為にキルヴァがレイスを飛ばしたことも。

 レイスとパンコを離し、その心の隙を狙うようにキルヴァが寝取る。

 …その一連の流れを。


「一夜を共にした仲だろうが!何故…」


「あ~それっすか…?」


 パンコが困惑したような声をあげる。

 軽く頭をかきながら…


「それがどうしたんすか?」


「え…?」


「抱いた抱かれた以上の繋がりは全く無い。ウチとアンタは赤の他人っすよ」


 冷たい声でそう言い放つパンコ。

 彼女にとってキルヴァはただの利用相手でしかなかった。

 彼が抱いた女に執着を持つ、ということは前々から調べをつけていた。

 それを利用し彼に近づいた。

 ただそれだけの関係。

 それ以上でもそれ以下でもない。


「…何が目的だ?」


「へ?」


「地位か?金か?それとも…」


 ノリンが死んだことで『勇者の婚約者』の椅子が空いた。

 その地位か?

 聖剣と引き換えにその地位をくれ、とでもいうのか。

 それとも金か。

 貴族の娘という身分では使える金に限界がある。

 勇者であるキルヴァの金を狙ったのか。

 いや、違った。

「ウチの目的、それは…」


「やれるものなら何でもくれてやる!だから…」


 そう言うキルヴァを手で制する。

 そして軽く首を振る。

 パンコの望み。

 それは…


「ウチはね、革命を成功させたいんすよ」


 キルヴァから奪い取った聖剣。

 それを鞘に納める。

 この剣は権力の証だ。

 この剣がある、というだけである程度従ってくれる古い考えの貴族も多い。


「この聖剣を持ったウチが革命軍と合流してこの国の王政を打ち倒す」


「なに!?」


 キルヴァに近づき聖剣を奪取。

 聖剣の威光で各地の古い考えの貴族を黙らせる。

 未だに地方には、王よりも聖剣に権力を見出す古い貴族がいる。

 それを利用し新たな時代の移り変わりを匂わせるのだ。

 もし可能ならば支援を引き出させる。

 そうでなくとも、貴族たちを静観の立場にさせることができる。


「そうすればウチは『革命の乙女』!新たな時代を切り開いた『英雄』ていうわけっすよ」


「お前…まさか…?」


「そう。ウチは最初から、『革命軍』側の人間すよ…」


 革命家オリオンや他の仲間たちとパンコ…

 いや、彼女の実家の『シヨーク家』は裏でつながっていた。

 革命軍と共謀し王都へと乗り込む。

 革命家オリオンの指揮のもと、革命を成功させる。

 それがパンコが…

 いや、オリオン達の野望の全貌だった。

 その計画の全貌を、派手なジェスチャーと共に語るパンコ。

 普段は決して見せぬ、彼女の一面だった。


「国王軍の人間の癖に…!」


「悪いが、沈み行く船に乗り続ける趣味は無いっすよ」


 時代は少しずつ、確実に動いている。

 民衆の間では水面下で現体制に対する不満が溜まり続けていた。

 欠陥だらけの勇者制度、一行に減ることの無い魔物、重い税金。

 この他にも上げればキリが無い。

 そして近年、それが徐々に表に噴出し始めてきた。

 それらは革命軍の原動力となり、人々の間に不満として積もっていった。


「もうそろそろこの国も限界が来ている、古い体制は討ち滅ぼされるべきっす」


「じ、じゃあパンコ!俺と一緒に外国へ逃げよう!そこで一生…」


 もうこうなっては、パンコと共にコロナに対する復讐を遂げるのは無理だ。

 しかし生きてさえいればいくらでもチャンスはある。

 今のキルヴァの財産全てをもって海外へ逃亡。

 そこで共に生活しよう。

 そう言うキルヴァ。

 しかし…


「キルヴァさん、もういいっす」


「パンコ、何を…」


 先ほどとは打って変わり、とても落ち着いた口調で言うパンコ。

 その眼は、どこか悲しい者を見るような眼をしていた。


「ウチが何で治療魔法を使ったのか、分からないんすか?わざわざ『顔だけ』に…」


「へ…?」


 改めて考えると、確かに奇妙だ。

 先ほどは特に酷い怪我を重点的に直した、と言ってはいた。

 しかしだからと言って、他の部分が治療できなくなる、ということがあるだろうか。

 足や腕も重傷を負っている。

 多少はそちらも治すはずだが、パンコはしなかった。

 そちらに対し、ただの止血程度で済ませているのは明らかにおかしい。

 と、そこに…


「その理由はこの私が説明してあげよう」


「あ、遅いっすよ!」


「キルヴァ、キミにもわかりやすくな…」


 そう言いながら現れた男。

 それは、あの薔薇仮面の将ローザだった。

 パンコとは顔見知りのようだ。

 革命軍のパトロンの一人であり、自称西方の生花商売業者。

 キルヴァにとっては以前、女を口説く際に妨害してきたということが印象に残っている。


「あの時の変態ヤロー、なぜここに!?」


「ふふふ。それだけか」


「あッ…?」


「この私が誰か、まだ分からないか?」


 以前、リブフートの料理店でローザと出会った際だった。

 キルヴァは彼に既視感を覚えた。

 あのローザという男とは、以前どこかで会ったことがある。

 しかしあんな仮面をつけた男ならばいやでも記憶に残るはずだ。

 そう考え、すぐ忘れることにした。

 だが…


「その声…まさか…!?」


 キルヴァは理解した。

 その声。

 パンコと知り合いである。

 そしてその身丈。

 立ち振る舞い。

 それと一致する男。

 彼の記憶に一人だけ存在した。

 それは…


「ふふふ。この仮面ももう必要無い!」


 そう言ってローザがその顔に付けていた仮面を外す。

 キルヴァはこの男の『声』を聴いたことがあった。

 それも当然のこと。

 仮面とウィッグの下から現れたその素顔。

 それは…


「貴様ぁ…!」


「ふふふ。いかにも」


「くッ…」


「僕だ!」


「生きていたのか、レイス!」


 その仮面の下から現れた素顔。

 それは激流に消えたと思われた知略の騎士。

 レイスだった…



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