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大切な幼馴染と聖女を寝取られた少年、地獄の底で最強の《侍》と出会う  作者: 剣竜
第二章 勇者キルヴァへの復讐

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第二十話 裏切り者のノリン(後編)

 

 三年前、コロナを裏切った少女ノリン。

 仲間と共に彼を謀殺し追放した。

 しかし生きて復讐に現れたコロナと戦い、彼女は負けた。

 完全な敗北だった。


 その彼女は、とある場所へと落下していた。

 今は使われていない、古い水路だった。

 戦闘の衝撃でそこに周囲の瓦礫が崩落。

 瓦礫の下に彼女は埋まってしまった。


「あ、足が…」


 瓦礫に足が挟まり完全に身動きが取れなくなる。

 身動きが取れず、全く動けない。

 このままではコロナに殺される…!

 だが、足を抜こうと思っても抜けない。

 彼女の思考を絶望が支配した。


「ノリン…」


 水路からノリンを覗き込むコロナ。

 彼はとても冷たい目をしていた。

 いままで見たことも無いような、とても冷たい眼。

 その眼にどんな感情がこもっているのか、まるで読み取れないほどに。


「た、助けて!全部アイツが!キルヴァが!」


「オレにどうしろというんだ?」


「これ!どかして!瓦礫を…」


「馬鹿な。そんな大きな瓦礫を俺がどかせるわけないだろう…」


 ノリンの上に落ちてきたのは大きな岩の瓦礫と小さな瓦礫の山。

 コロナ一人ではどうしようもないほどの。

 それがうまく隙間を作り、ノリンの上にのっている。

 むしろそのまま潰されなかったのが奇跡のような状態だった。

 だが…


「誰かどうにかしてよ!」


「誰にもどかせねぇよ。そんな岩…」


 そうとだけ言うと、コロナは顔を引っ込めた。

 助ける気などない。

 そうとでも言わんばかりに。


「その水路、時間によって水位が変わんだよ。変わってるよな」


「え…?」


「山から引いてる水が関係してるのかな?わからないけど」


 この古い水路は時刻により水位が変わる。

 朝には水が溜まり、夜には減るという。

 この水路が使われなくなったのは、そんな奇妙な性質があるからだ。

 そうコロナは言った。


「今は夜中だから、あと数時間で水が溜まる」


 それまでに出なければ、ノリンの身体は完全に水没する。

 そんな彼女に訪れるのは『確実な死』だ。

 しかし救助は一切期待できない。

 あれほど見栄を張ってきたのだ。

 ミーフィアもキルヴァも来ることは無いだろう。

 もちろん、こんな所を一般人が通ることも無い。


「ち、ちょっと待って!お願い!待って!死にたくない!」


「そりゃそうだろ。誰だって死にたくないもんだ」


「アンタにあたしを裁く権利なんてないでしょ!なんでこんな!?」


 かつてコロナを殺そうとしておきながら、あまりにも身勝手な言葉。

 だが、コロナは感情的にはなれなかった。

 何故か、非常に冷静だった。

 ただ、淡々と言葉を述べ始める。


「三年前さ」


「え…」


「俺だって死にたくなかったよ。けどお前らが…」


「それは全部アイツが!キルヴァが!ミーフィアが!聞いてるの、ねぇ…」


 その言葉を聞きながら、コロナはその場にしゃがみ込んだ。

 以前にカケスギからもらった煙草を取り出し、火をつける。

 コロナは普段はあまり煙草は吸わない。

 あの最低の街で彼が吸うものといったら大抵相場は決まっていた。

 三年前の売春時代に金持ち連中から行為中に受け取ったモノ。

 あるいはデスバトル後に苦痛を紛らわすのに使っていたモノか…


「聞いてるよ」


 やはり煙草は口に合わないな。

 彼はそう思いながら水路の中に火のついた煙草を捨てる。


「俺がこの三年、どういう生活を送ってきたか教えてやろうか?」


「そんなことよりはやく助け…」


「三年前、お前たちに殺されかけ、死にかけた俺がたどりついた場所は…」


 ノリンの言葉を無視し、彼は話を進めた。

 最終的に辺境のスラム街、そのさらに最底辺の地へと流れ着いたこと。

 まともな仕事などできず、あらゆることをやったこと。

 窃盗、殺人、賭博、ドラッグ、売春、投棄、考えられる犯罪にはほぼ手を染めた。

 それらを全て話した。


「人の殺し合いを見て楽しむような連中がいるような場所だぜ?笑えるよな」


「う、うう…」


「ははは…はは…」


 無理矢理笑い声をあげるコロナだった。

 だが、その声は笑ってなどいなかった。

 複雑な心境の入り混じった声色だ。


「護人だった自分を捨てて、僅かな金のために身体を切り売りし…」


 汚い貴族にいいようにもてあそばれ、命を賭けた戦いを強いられた。

 しかしそれがあったからこそ今の自分がいる。

 そう考えるととても複雑だ。

 三年前のあの時に死んでいたら、自分はここにはいなかったのだから。


「わかるか?」


「う…」


「ふぅ…」


 そして大地を背にし、夜空を見た。

 とても明るい月、満天の星空。

 復讐などという言葉とは似つかぬ、美しい空だった。


「ノリン、昔さ、一緒に山に月を見に行ったことあったよな」


「え…え、ええ!そうね、昔ね、一緒に。懐かしいわぁ」


「…そんなもん、行ってねぇよ!適当に言っただけだ!お前は何を考えているんだ」


「あッ…えっと…」


 その言葉と共に二人は言葉を失った。

 月の明かりが二人を照らし出す。

 旅に出たあの日から…

 いや、初めて会ったあの時から。

 二人はずっと遠い所へ来てしまった。

 コロナはそれを改めて確信した。

 もはや、『絶対に』昔の関係に戻ることなどはできない、ということも。


「と、とにかく助けてよ!お願いだから!なんでもするから!だから…」


「仮に助けるとして、何をすればいいんだよ」


 先ほどもノリンに入ったが、彼女の上の瓦礫はコロナ一人ではどうすることもできない。

 ノリンの上に落ちてきたのは大きな岩の瓦礫と小さな瓦礫の山だ。

 もはやコロナは水路の中を覗く気にもなれなかった。

 自分の気が済むまで彼女の話し相手をする。

 ただ、それだけだった。


「き、キルヴァ!アイツを呼んできてよ!それにミーフィア!アイツなら…あの二人を…」


「オレにアイツらを呼んで来いってか?冗談だろ。その場で殺し合いになりかねないぜ」


「そ、それは…」


 ただでさえ、敵対しているコロナとキルヴァ。

 そんな中でキルヴァがコロナの言うことなど信じるはずもない。

 間違いなくその場で殺し合いになってしまうだろう。

 ミーフィアも同じく。

 当然、その場合はノリンは助からない。

 それを彼女自身は理解した。


「あ、ああ…」


「それよりこの剣…スモールソードか。いい武器だよな」


 さきほどノリンが使用していたスモールソード。

 それを拾い上げた。

 折れてしまってはいるものの、なかなか質のよさそうな武器だ。


「き、キルヴァからもらったの」


「随分と高そうな代物だな」


「え、ええ。まぁ…」


「昔、俺と旅していた時に使っていた剣はどうした?」


「た、大切に取って…」


「正直に言っていいさ。さすがにずっと使い続けていられるとは俺も思ってない。捨てたんだろ」


「…うん」


「そっか…」


 そうとだけコロナは言った。

 少し寂しげな感情が含まれているようにも聞こえた。

 そうとだけ言うと、その場に寝転がっていたコロナが立ち上がった。

 彼が水路の中を見ることは一切なかった。


「…もう行くよ、ノリン」


「え…?」


「こんな形とはいえ、話ができてよかったよ。…『最後』にな」


「ち、ちょっと待って!」


 コロナのいる地上に向かって叫ぶノリン。

 このままではコロナが行ってしまう。

 何とかしなければ…


「奴隷でもなんでもなるから!なんでも!本当に!」


「いらんな」


「なんでも…ひッ!」


 その時、ノリンは気づいた。

 目の前にあった小さな瓦礫。

 先ほどまで自ら出ていたそれが、いつの間にか『水没』していることに。

 着実に水位は上がってきている。

 それを改めて実感したのだ。

 顔から血の気が引き、さらに強く助けを求める。


「お願い!本当に!行かないで!助けて!」


 必死で懇願するノリン。

 その頼んでいる相手は、かつて自分が殺しかけた相手。

 しかしそんなことなどもはや関係ない。

 そう言わんばかりに。


「昔の『ノリン』はもういない。貧しい中でも一生懸命、頑張って生きていたあの子はもういないんだ」


「あ、アンタ何を言って…」


「ほらよ」


 そう言いながら、コロナは水路にあるものを投げ込んだ。

 それは先ほどノリンが使っていた折れたスモールソードだった。

 水面に叩きつけられ、水滴が辺りに飛び散る。


「え?」


「それで足を切断すれば出られるだろう」


「へ…?」


 確かに、彼の言うとおりにすれば出られる。

 もともと体格が小柄なノリンだ。

 足首から下を切断し這って登れば、出られなくはないだろう。

 …理論上は。


「こ、こんな折れた剣でそんなことできるわけないでしょ!」


「骨を避ければできる。肉だけを切れば切断は可能だ」


「そんな…」


「時間はまだたっぷりあるからな。ゆっくり考えろ」


「ち、ちょっと!ほ、本気で言ってるの!?ねぇ!?」


「冷たい水と共にな」


「あ、あああああああああああああああああああ!待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!助けてええええ!」


「じゃあな。ノリン」


 ノリンの悲痛な言葉が辺りに虚しく木霊する。

 しかし、もはやそんな言葉を聞く者は誰もいない。

 助かるには折れたスモールソードで足を切断しなければならない。

 しかし、そんな狂気めいた行動がノリンにできるはずも無かった。


「水がああああぁぁぁぁ!あ、あああああああああああああ!」


 斬ろうと思っても恐怖で手が動かなくなる。

 無理矢理にでも動かそうとしても、一定以上が進まない。

 彼女は最後まで、『狂気』と『衝動』に身を任せることができなかったのだ。

 その後、彼女に訪れたのは水位の上昇による『確実な死』だった。

 水路の水は彼女の鮮血で赤く染まっていたという…


「不幸な時代だ…」



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― 新着の感想 ―
[一言] 良いお離しダナァと。(;∀;)(特に土左衛門なあたりが。)
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