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大切な幼馴染と聖女を寝取られた少年、地獄の底で最強の《侍》と出会う  作者: 剣竜
第一章 再起への道のり

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第十三話 最高の舞台へ…

ノリンは性に寛大な人です。

 

 山の下の街、『リブフート』へと向かっている二つの勢力。

 コロナとカケスギ、ソミィの一行。

 そして時を同じくして、リブフートへと向かうキルヴァたち勇者パーティ。

 そもそも最初にキルヴァを動かしたのは、あの謎の黒魔術師の少女だった。

 彼女の目的は一体なんなのか…?


「…退屈」


 彼女は今、藩将ガレフスの屋敷にいた。

 彼を抹殺しその死を偽装。

 実質的に彼の地位をそのまま奪い取ったのだ。

 彼女の魔法の力を使えば、その程度はどうとでもなる。

 彼の部屋をそのまま自室代わりに使っている。


「ガレフス様!」


 そう言って部屋に入ってきたのはガレフスの部下。

 この部屋自体はガレフスが使ってきたときの内装そのまま。

 黒魔術師の少女は部屋に会ったソファをベッド代わりに使っていた。


『どうした?』


 そう答えるのはガレフスの『現身』、魔法によって作られた人形のようなモノだ。

 声、仕草、その他ほぼ全てを完全に再現している。

 彼が死んでから数週間が経っているが、未だに誰も気づく気配はない。

 部下の目が節穴、という訳では無い。

 この黒魔術師の少女の魔法が凄いのだ。


「勇者キルヴァからの『護人コロナ』の捜索依頼ですが…」


『おお、どうだ?見つかったか?』


「いえ、まだ見つかっておりません」


 黒魔術師の少女はガレフスの地位を利用し、コロナの捜索を彼の部下にさせていた。

 一度はガレフスが断った仕事だけに最初は部下も不信感を抱いていた。

 とはいえそこは口八丁でごまかしやり過ごした。

 上手く見つければ国から褒美が出る可能性が高い、などと言いくるめて。


『そうか。まだか…』


「も、申し訳ございません。ですが…」


 部下は、目撃情報があったということを彼に伝えた。

 ミッドタウンに向かう山道でそれらしき人物を見かけた。

 山道でそれらしき人物と交戦した、という情報があった。

 …と。


『なるほど…』


「こちらは信憑性も低くは無いかと思われます」


 そう言う部下。

 確かな筋の情報だ、と。


『わかった。気長に待とう。今後の仕事にも期待しているよ』


「ありがとうございます」


『ああ…』


「そういえば、この御嬢さんは?」


 部下がソファで寝転がる黒魔術師の少女を指さして言った。

 最近ずっと居ついているこの少女だが、部下には特に何も言われていない。

 いつの間にかいたのだ。

 食事もこの部屋でとっているようだが…


「俺の姪でな…」


『姪でーす!よろしくおねがいします!』


 普段は使わぬような、年相応の言葉で答える黒魔術師の少女。

 屈託のない笑顔を見せ言うその顔。

 それは普通の女の子と全く変わりない。

 あのような戦いをし続け、暗躍し続けているとは想像もつかない。


「そうでしたか…」


『しばらく預かってくれと頼まれてな。それより、早く仕事に戻れ』


「は、はい!」


 そう言って部下は部屋から出て行った。

『最近、ガレフス様は仕事中に酒を飲まなくなったな』

 姪がいるので酒は遠慮しているのだろうか、と。

 普段はよく飲んでいたのだが。

 そう思いながら。


「まだ、コロナたちの正確な位置は私もよく分からないからね」


 机に置かれていた果物の入ったかご。

 複数の果物が入ったかごの中からどれを食べるかを、選別する。

 その中からリンゴを取り出しかじる。

 彼女の当分の目的はキルヴァとコロナの決戦。

 その舞台の仕立てにある。

 二人を最高の条件で戦わせること、それが当分の目的だ。


「そのためには…」


 リブフートに向かった、という情報。

 その町の名は黒魔術師の少女も知っている。

 ちょうど田舎と都市を繋ぐ地点にある、交易の要。

 いろいろな店舗もあり、行ってみるのも面白いかもしれない。

 しかし…


「あの辺りには藩将と市将がいたはず…」


 彼女の言うとおり、あの付近には『藩将コーリアス』と『市将ラナヒス』が納める町がある。

 リブフート自体には藩将も市将もいない。

 しかし実質的に、その二人がそのリブフートの将を兼ねていると言ってもいいだろう。


「邪魔されたくないしなぁ」


 仮にリブフートがキルヴァとコロナの決戦の舞台となった場合を想定しよう。

 二人が戦った場合、激戦は確実。

 しかし、この二人の戦いに『藩将コーリアス』と『市将ラナヒス』が乱入。

 そのまま勝負がうやむやになる可能性がある。

 もちろん、そんな可能性は無いかもしれない。

 そもそも、二人の戦いはまず公になることはない。


「でも勇者サマは隠したがってたみたいだし」


 キルヴァの性格からして、自身の手で確実にコロナを下すはずだ。

『藩将コーリアス』と『市将ラナヒス』が乱入する確率は低い。

 しかし、確率はゼロでは無い。

 これはいけない。

 この二人には『確実』に決着をつけてもらわなければいけない。


「時代の流れを掴むために…」


 そう言って黒魔術師の少女はソファから降りた。

 いつの間にかリンゴは食べ終わった後だった。

 リンゴの芯を窓から投げ捨て出発の準備をする。

『藩将コーリアス』と『市将ラナヒス』を先に片付けておくために。




 --------------------



 ここは『市将ラナヒス』が治める町。

 バレースの町よりは一見して治安がいいようにも見える。

 しかしそれは彼が仕事をほぼ放棄しているためだ。

 軍はろくに機能せず、町の自警団が盗賊や魔物から自力で身を護っている。


「やはりわがコレクションは絶品だ…」


 自身の趣味で集めた芸術品を鑑賞する事。

 それが彼の趣味だった。

 その地位に任せ集めた芸術品を眺め一日を過ごす。

 しかしそのせいで仕事はおろそかになっている。

 彼の配下の部下もやる気をなくし、半ば死に兵と化していた。


「ふひひ…」


 その太った腹を撫でながらコレクションルームからでるラナヒス。

 部下に用意させた夕飯を食べよう。

 そう思いながら。

 しかし…


「あ、どうもこんばんわ」


「な、何者だね!キミは」


「食事、先に頂いていましたよ。ラナヒスさん」


 そこにいたのはあの黒魔術師の少女だった。

 縮地法と魔法を利用し、短時間で『市将ラナヒス』の街へとやってきたのだ。

 ガレフスの町からは、安全性を無視した最短距離でも普通ならば数日はかかる距離。

 それをわずか数時間でいどうしてみせたのだ。


「それにしても油ものが多いね。太るよ」


「なに!?」


「あ、もう太ってるか」


 ラナヒスの食事を先に食べていた黒魔術師の少女。

 ソーセージを丸かじりしながらそう言い放った。

 そしてテーブルのまわりには、ラナヒスの部下たちが横たわっていた。


「安心しなよ、全員気絶しているだけだから」


「まさか私のコレクションを盗みに来た賊か!?」


 飾られていた鎧が持っていた武器バトルアックス。

 それを手に取り上げ、それで黒魔術師の少女に斬りかかるラナヒス。

 難なく避ける黒魔術師の少女。

 だが、力任せにに振り回されるそのバトルアックスに驚きを隠せない。


「意外とやるね」


 市将とはいえ、これは少し面倒かもしれない。

 単なる肥満体のデブかともおもったが、そうでもない。

 このまま放っておいて勝手に疲れるのを待ってもいいかもしれない。

 しかしどうやら彼は俗にいう『動けるデブ』のようだ。

 あの厚い脂肪の下には、かなりの量の筋肉が隠れているのだろう。

 そう考えた黒魔術師の少女は敢えて攻撃を誘った。


「一撃で倒してみてよ」


「…幼女相手でも手加減はしないよ!」


「ふん!」


 挑発を受け、力を込めバトルアックスを振りかざすラナヒス。

 しかしそれの攻撃を受けたのは黒魔術師の少女では無かった。

 その背後にあった木製の像に突き刺さった。

 バトルアックスが当たる瞬間、黒魔術師の少女がそれを避けたのだ。


「アァッ!?ふざけんなよぉ!」


 バトルアックスは深々と木製の像に突き刺さっている。

 このまま抜くのには時間がかかりそうだった。

 しかしそれは彼も理解していたのだ。

 ラナヒスはバトルアックスをそのまま捨てた。

 その代わりに手に取ったのは別の像が持っていた槍。

 これを武器代わりに黒魔術師の少女に襲い掛かった。


「ぜやぁ!はぁぁぁぁぁ!」


「もう終わりだよ、『幻影闇龍懐』!」


「う、うわァァァァァァ!!」


 黒魔術師の少女の必殺の一撃『幻影闇龍懐』。

 それを受け、奇声を上げながらその場にしゃがみ、倒れ込むラナヒス。

 腹の肉を抉られ、辺りに鮮血が舞う。

 しかし、さきほどの一撃で倒れた部下たちよりはさすがに多少腕がたつらしい。

 攻撃によるダメージで意識を失うことはなかった。

 しかしその顔は苦痛に歪んでいる。

 その顔で黒魔術師の少女を見据え、睨みつける。


「う、うぐぅぅぅぅぅ…」


「ふん。終わったみたいだね」


「うぐぅぅ…な、なぜこんなことを…」


「まぁ、こっちにもいろいろと事情があるの。悪く思わないでね」


「くそぉ…!芸術品を…はぁぁぁぁぁ…像を…絵画…あぁ…うぐぅぅ…」


「まったく、『あの子』の『必殺技』の『幻影闇龍懐』を受けても死なないっていうのはすごいけど…」


「う、うぅぅぅぅぅ…はぁぁぁぁぁ…」


 その場にうずくまるラナヒス。

 そんな彼を見て油断したのか、黒魔術師の少女に僅かな隙が生まれた、

 ラナヒスはそれを見逃さなかった。

 彼も一応は市将の座を持つ実力者なのだ。

 相手の隙を見極めるくらいの実力は、当然だが持ち合わせているのだ。


「う、うぐぅぅぅぅぅ…」


「もう終わッ…」


「今だ!死ねぇ!」


 槍を再び構え、黒魔術師の少女に襲いかかった。

 ここまでやられてタダで返すわけにはいかない。

 せめて相打ちに。

 そう考えたのだろう。

 しかし…


「ハッ!」


「う、うわァァァァァァ!!」


 そんなラナヒスに対し、黒魔術師の少女が軽い衝撃波を放った。

 威力はほとんど無に等しく攻撃用では無い。

 ちょっと強い突風程度の風圧に過ぎない。

 しかし突然の風にあおられたラナヒスは攻撃を中断。

 壁に叩きつけられてしまった。

 その衝撃で壁に少しヒビが入ってしまった。


「あっ…!う、うぐぅぅぅぅぅ…」


「びっくりしたよ。まったく…」


 尻餅をついた彼の頭を軽く掌底で叩く黒魔術師の少女。

 これも先ほどの衝撃波と同じくダメージを与える目的の攻撃では無い。

 脳に軽い衝撃を与え、興奮状態にあった彼を気絶させるための技だ。

 黒魔術師の少女の軽い掌底をその頭に受けたラナヒスは気絶。

 その場にゆっくりと、そのまま崩れ落ちた。

 気が抜け、そのまま彼は絶命した。


「まずは一人。ほんの小さなツイスターだけどね…」




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