第十二話 ノリンの趣味
大型肉食獣型魔物
大型肉食獣型魔物
大型肉食獣型魔物
大型肉食獣型魔物の討伐を済ませた二人。
ギルドで報酬を受け取り、しばしの休息をとる。
そして宿を世話してくれたオリオンに挨拶をし町を後にした。
急ぐ旅ではないが、長居する意味も無い。
居心地は良かった。
だが長居は逆に迷惑をかけるかもしれない。
「気がいいヤツだったな、オリオン」
山を下りながら歩くコロナたち。
これまで敵から奪った物品を売りさばき、大型肉食獣型魔物の討伐をした。
荷物は減り、金がその分増えた。
荷物が減ったことでソミィも喜びの表情を浮かべていた。
「最終的な目的は似たようなモノだからな。革命軍に入らなくてもいいっていうのはそういうことだろう」
オリオンの目標は『現体制の破壊』、カケスギは『国盗り』とそれ自体はにている。
旅の過程でカケスギは、これからも政府関係者を攻撃していくだろう。
それは間接的に革命軍の助けにもなる。
「なかなか強かなヤツだ」
各地で補給をしてくれる、というのもあくまで革命軍の活動の助けになるからだろう。
とはいえ、彼自身が根っからの悪人では無いというのは事実だろう。
目を見れば分かる。
「それに利害関係で組むヤツの方が信用できる」
現状のカケスギの行動はオリオンの利となる。
そしてオリオンの行動はカケスギの利になる。
この二人の関係は得しかない関係となる。
だがコロナにはひとつ気になることがあった。
…オリオンたち革命軍の活動資金だ。
「革命軍は国内で既にそこそこの勢力になっている。その活動資金はどこから出ているんだ…?」
「所属メンバーから徴収、それと…」
「やはり…?」
「ああ。多分な」
裏に何らかの『パトロン』がいるのではないか。
カケスギはそう言った。
現体制に不満を持つ王国側の人間、あるいは何らかの企業。
それがパトロンについているのではないか。
二人はそう考えた。
「もしいるとしたらどういうヤツだと思う、カケスギ?」
「『市民派』や『民間支持の高い』市将や藩将あとは騎士…あたりというところか?」
カケスギが例に挙げたのは二つ。
市民派の貴族と民間からの支持の高い藩将や騎士、市将
あたりか、と。
「『前者』が金を出し大まかな指示を出す。そして『後者』が武器などを支援し細かい指示を出す」
「…なるほど」
「勝手な予想だけどな。アテにはならんぞ」
「ま、参考程度に考えておくよ」
そう話しながら山を下るコロナたち。
歩いているうちに日が傾き始めた。
夜間の下山は危険だ。
早めにどこかで休む必要がある。
と、そこに…
「お、小さな村があるぜ」
少し降りた先にある開けた土地。
そこに小さな集落があるのが見えた。
建物の数は十数戸程度。
だが山の中ではあるが小さな店なども見えた。
「ちょうどいい。そこで休むか」
とりあえず本日はその集落に滞在することに。
山林業者や訳あり人物の住む家、彼らや旅人などを相手にした店。
それらが集まってできた集落のようだ。
「酒場なら金を払えば泊めてくれるかもな、ちょっと聞いてくる」
そう言うとコロナは酒場の方へ向かっていった。
この集落には革命軍の関係者はいなさそうだ。
臭いでわかる。
滞在するなら自費になるだろう。
「酒場で泊めてくれるってさ。行こうぜカケスギ、ソミィ」
「…わかった」
そう言いながら、酒場へと入る三人。
あまり上等な店では無く、店長以外の店員もいない。
薄暗く狭い店内にはテーブルが数えるほどしかおいていない。
別室に続く扉が奥にあるが、そこを使えということだろうか。
先ほど話を付けたというカウンターの男にコロナが金を渡す。
「しばらく頼むよ店長」
どうやらこの男が店長のようだ。
コロナが金を渡すと、奥の棚からつまみと瓶に入った水を三人に出す。
つまみと言っても野獣の干し肉や豆類などの保存食を兼ねたような食べ物だが。
「わかった」
店長が言った。
無愛想な返事だ。
そんななか、店長は変わった格好をしているカケスギに注目した。
「その顔つき、東洋人か?」
「ああ」
「差支えが無いのなら旅の話を聞かせてくれないか?」
「別にかまわんが」
「東洋には少し興味があってな…」
「ふふふ…」
意外と気が合ったのか、意気投合する店長とカケスギ。
いろいろな話をしていく二人を見ながらつまみを食べるコロナとソミィ。
コロナは干し肉をかじりながら二人を眺める。
そして割と元気なソミィに安心感を覚えた。
重い荷物を持って疲労がたまっているかとも思ったが、そんなことは無いようだ。
「そういえば…あ、いらっしゃい」」
カケスギとの会話中だった。
別の客が入ってきたため、そちらに回る店長。
この店の店員は彼しかいない。
そのため接客もすべて彼一人でこなさなければならないらしい。
しかし、その店に入ってきた男の雰囲気に威圧されてしまう。
「強い酒と肉、あとつまみだ!」
「は、はい!」
客の男が荒々しく怒鳴るように注文する。
そして店長に料金を払うとカケスギ達の席にやってきた。
どうやら、ただの客という訳では無いようだ。
剣を携えており、よく見ると懐にはさらに隠し刀を持っている。
いや、さらに他にも複数の武器を携帯している。
「よぉ、相棒」
「…オレか?」
その客の男が馴れ馴れしくカケスギに話しかけた。
相棒、と呼んではいるか当然カケスギにこの男との面識はない。
空いていたカケスギの隣の席に乱暴に座り、干し肉を食べながら男は話しかけた。
「へへ、アンタがバレースのヤツとレイスのヤツを潰したカケスギだろ?」
王国の追手だろうか?
そう思ったコロナが壁に掛けてあった剣にこっそり手を伸ばす。
だが、男にはどうやら戦う意思は無いようだ。
「俺の名は『リカー・フッケ』、あんたをスカウトしに来た」
その後の話によるとこのフッケという男、どうやらならず者集団のリーダーだと言う。
最近、名の売れてきたカケスギがこの辺りに来ているという噂を聞きやってきたのだ。
自分のチームにカケスギが加われば、よい戦力になると考えたのだろう。
たが、当然そんな集団の仲間に入るカケスギでもない。
「他を当たれ」
「まぁ、そう言わずに。この料理を奢るからさ」
そう言いながら先ほど注文した料理をカケスギに差し出す。
だが彼の思いは変わらない。
ただし料理は頂いた。
「もちろんタダとは言わん。金だって払うし食い物だって…」
「黙れ」
「は?」
「うるせぇ!断ってるだろ!いい加減にしろ」
そう言うとコロナがフッケに拳を叩きこんだ。
そして店の外へと叩き出した。
「…何だったんだ?」
「たまにああいうヤツが来るんだよ、強い奴を探しにな」
店長によるとこの辺りではよくあることらしい。
小さな盗賊団などでは戦力確保も重要となってくる。
強いと噂の人物に積極的に声をかけて回っているという。
旅人や退役軍人など見境なく。
「まぁ、放っておけばいいよ。気にしてたらキリが無い」
「そうか…」
コロナは一抹の不安を感じながら、カケスギに目をやる。
彼は特に気にする様子もなかった。
ソミィと共に先ほどフッケから頂いた料理を食べている。
気にしすぎるのも良くない。
そう考えたコロナはこれ以上は余計なことを考えるのを止めた。
「この村から下の町まではどれくらいかかるんだ?」
「三日ってところだ。距離は短いが道が入り組んでるからな」
「下の町の名前は?」
「ああ、『リブフート』ってところさ。結構大きな町だ」
「そうか。明日になったら出るから、三日分の食糧もらえるか」
「ああ。用意しとくよ」
「助かるよ、ありがとう」
そう言いながらコロナが頭を下げる。
カケスギから東洋の話を聞けたからか、店長の機嫌もよさそうだった。
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一方その頃、キルヴァはコロナのいる場所のおおよその当たりを付けていた。
密偵、そしてコロナたちと交戦した仮面たちからの連絡によって。
山林の町ミッドタウンに滞在したのはほぼ確実。
そしてその次に現れるのは…
「山の麓の町、『リブフート』か!」
使用人に命じ、リブフートへ向かう準備をさせる。
馬車や武器、その他諸々。
それと共に屋敷にいるノリンとミーフィアにも声をかける。
「ミーフィア、いるか?」
「ええ」
部屋で道具の手入れをしていたミーフィア。
彼女にコロナの居場所のあたりが付いたことを伝える。
それを聞き笑みを浮かべるミーフィア。
「そうですか。ふふふ…」
「ノリンは?」
「自室でパンコちゃんと…」
「チッ…趣味悪いなアイツも…」
キルヴァが悪態をつく。
ノリンはパンコを部屋に連れ込んでいた。
彼女の身体に手を伸ばす。
服の下に手を入れ軽くまさぐる。
「ひうぅ!?」
「ずっとあたし達と一緒にいましょうよ…パンコちゃん」
「ちょっと?な、なにしてるんすか!?」
「なにって…ふふふ…」
「まずいっすよ!ちょ…本当に…うッ!」
暴走するノリンを止めようとするパンコ。
だが彼女にそれを止める気は一切ない。
と、その時…
「ノリン!」
「うわびっくりした!何よキルヴァ」
「コロナの居場所が分かった。すぐに出かけるぞ!」
「…本当に?」
「ああ」
「…わかった。少し準備するから待って」
そう行って準備を始めるノリン。
コロナとキルヴァ、二人の決戦は近い…
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