第九話 抱かれたパンコ
レイスがコロナたちとの戦いに赴いてから一週間が過ぎた。
途中の妨害を潜り抜け、コロナたちは目的の町へとたどり着いた。
山間部にある『ミッドシティ』という町だ。
かつては山林事業で栄えた町だったが近年はあまりもうからなくなっているという。
そのためなのか、町の様子もどこか活気が無い感じだ。
「山の中だけあって、木でできた建物が多いな」
「おおいねー」
「ソミィもそう思うだろ?」
「うん」
「当たり前だアホ共。さっさと行くぞ」
カケスギに連れられ、向かった先は酒場。
まだ昼過ぎにも関わらずだ。
食事をするだけならば他にも適切な場所はいくらでもある。
「いらっしゃい」
「コイツからの紹介だ」
酒場に入り、店主にあるものを叩きつける。
それはルーメからもらった紹介状だった。
彼女のサイン入りだ。
「ヤツとはどういう関係で?」
「まぁいろいろとな」
「…閉店30分後にまた来てくれ」
「なるほど。わかった」
閉店後三十分に再び来い、店主はそう言った。
この店が閉店するのは深夜。
それまではまだかなりの時間がある。
「ギルドにでも行って依頼受けて時間でも潰すか?」
「こんな町にろくな仕事があるとは思えないがな」
もしあるとするならば、時間のかかる『採取系』の依頼がほとんど。
『討伐系』などはあまりないのではないか。
カケスギはそう続けていった。
「適当に町を回ってメシでも喰っていれば、すぐその時間になるさ」
「そういえば前のゴブリンから奪った物資も処分してなかったな」
ゴブリンだけでは無い。
ここに来るまでにも小さな魔物との戦いは何度かあった。
そういった者から回収した物資などが溜まり荷物を圧迫していたのだ。
いつもならソミィに持たせていたが、さすがに量が多くなるとそうはいかない。
そのため皆で分けて持っていた。
「それを適当に売り飛ばしてウマいメシでも喰うか」
そう言って三人は町で時間を潰すことに。
今までの戦いで回収したものを売れば結構いい金額になるだろう。
今後の準備をしつつ食事もすることに。
「そこにするか」
カケスギがコロナとソミィを連れて食事に出かけた先。
この町の住人が営んでいる食堂だった。
ミッドシティの付近で獲れた山魚と近隣の森で採取した山の幸。
それらがが楽しめるという。
「ああ。いいぜ」
食堂は、道路を挟んだ酒場の対面のに作られている。
店長が無愛想に三人を席に案内する。
店内は開放的なオープンカフェのようなつくりだ。
武骨な顔の店長だが割と趣味は若者的だ。
さっそく席に座り、注文をする三人。
「結構いろいろあるな」
「なにあるの?」
「山魚の料理が多いな。俺は酒だ」
カケスギが頼んだのは、やはり酒だった。
それとつまみになりそうな物。
そしてパン。
コロナとソミィもそれぞれ料理を注文する。
「あとは適当に野菜系の物を頼むか」
「何にする?」
「…よし、このキノコソテーにしよう」
それぞれ興味のそそられる料理を注文した三人。
注文した料理が意外と早く来たため、それぞれ食べてみる。
今まで食べたことのない海の幸と山の幸を堪能する二人。
そうしているうちに時間は過ぎて行った。
そして約束の時間。
改めて酒場を訪れる三人。
店の隅の席に座る一人の男。
少し焼けた褐色の肌に、バンダナでまとめられた金色の髪。
山間部での様々な仕事で鍛えられた筋肉質な身体。
その彼の席へと案内されるコロナたち。
店主が水の入ったコップをテーブルの上に置く。
それを少し飲むと、その男が口を開いた。
「…ルーメからの紹介を受けたのはお前達か?」
「そうだ」
そう返事するコロナ。
黙って軽く頷くカケスギ。
もらった水を飲むソミィ。
「俺は『オリオン』、よろしくたのむ」
「オリオン…まさかあんたが!?」
コロナはオリオンの名を知っていた。
この国の政治に不満を持つ者達が集まり組織した『革命軍』。
その若きリーダーの名だ。
各地に拠点を持っており、外部からはどこに滞在しているのかはよくわからなくなっている。
とはいえ、若いといってもコロナより一回りは年上だが。
「ああ。ルーメから紹介を受けたってことは、お前たちも同じ考えだろう」
「まぁな」
コロナは国に恨みを見持っていることを簡潔に話した。
キルヴァたちのことまで話したわけでは無い。
流石にそこまでを話す勇気は無かった。
しかしその部分を省きつつ、自身が国に良いように使われて捨てられたこと。
最低の生活を送ってきたこと。
それを彼に話した。
黙って頷くオリオン。
「…辛い生活だったな」
「へっ」
「簡潔に言おう。俺達の革命軍に入ってくれないか?」
「オレ達三人にか?」
「ああ。ルーメには以前から頼んであったんだ。同志を探してほしい、と」
オリオンの提案。
それは革命軍に入らないか、というものだった。
各地を回るルーメにもそれを依頼しておいたらしい。
同志を探してほしい、ということを。
「活動内容は?」
「迫害されている者を助け、腐敗した役人どもを叩く。キミ達がバレースを倒したようにな」
「…知っていたのか」
バレースを潰したことに対しそう言うコロナ。
だが、よく考えればあの場にはルーメがいたのだ。
そのルートで話が入ってきていてもおかしくは無い。
一見いいような提案にも見える。
だが…
「…俺はやめておく」
話に割って入り、そう言ったのはカケスギだった。
もともと集団で行動するのは好きでは無い。
自分の好きなようにやらせてほしい。
…彼はそう言った。
「…悪いけど、カケスギがそう言うなら俺もやめておくよ。ソミィもそうだろ」
「うん」
目標はあくまでカケスギの国盗り。
革命軍と行動をともにすれば別のことをすることもあるだろう。
人々を助けることは確かにいいことかもしれないが、コロナたちの最終目標では無い。
「そうか。残念だよ」
「すまないな」
「いや…いいさ」
オリオンがそう呟いた。
そして再び彼がある提案をした。
「ならせめて物資の補給や行く先々での宿の手配くらいはさせてくれないか?」
「いいのか?」
「革命軍には入らずとも、キミ達のようなものがいてくれれば士気も上がるからな」
コロナやカケスギのような存在がいる、というだけで革命軍の士気が上がる。
それだけで十分だ。
オリオンはそう考えた。
「ありがとう、助かるよ」
「仲間がいる町には話を付けておく。宿の案内と補給をするように、とな」
革命軍は国の中にも多数の支部を持っている。
これから先、そこで補給を受けることができるようになった。
もちろん上等な宿という訳でもないし、物資も大量に受け取れるわけでも無い。
しかしこれでしばらくは困らずに済みそうだ。
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ちょうどその頃、王都クロス。
レイスが居なくなり後に残されたパンコ。
彼女はレイスがどうなったのかはまだ知らない。
仕事だから当然時間がかかる。
移動や各所への報告などを考えれば、戻ってくるまでにさらに時間がかかるだろう。
そう考えているのかもしれない。
「ノリンちゃんに会いに来ただけっすからぁ…」
彼女が来ていたのはキルヴァの屋敷だった。
とはいえ、彼に会いに来たわけでは無い。
ノリンに会いに来たのだ。
友達の少ない彼女にとってノリンは数少ない話し相手だった。
元々この王都には知り合いのほとんどいないパンコ。
レイスが居ないと彼女には居場所がほとんど無かった。
唯一入れる場所がこの屋敷だったのだ。
「ああ、そう言うことにしておくよ」
「んっ…」
「寂しかったんだろ、よくわかるよその気持ち」
上手くキルヴァに丸め込められたパンコ。
『本当にこんなにうまくいってもいいのか?』
と思えるほどに。
「どうする、しばらくなら部屋も貸せるが?」
どうせほかに行くところも無いだろう。
そう言う考えが彼にはあった。
案の定、パンコの言葉は彼が想像したものと同じだった。
「そ、そうするっす…」
「ノリンとミーフィアも喜ぶぜ」
その後、パンコは先に部屋へと戻っていった。
しばらく彼女に部屋を貸すよう、使用人には言ってある。
「シヨーク家の一人娘か…」
国でも有数の良家の出身であり、平民に対しても理解の深い『シヨーク』家の一人娘。
その一人娘であるパンコ。
彼女をこちら側に引き入れておいて損は無い。
レイスがいない今がチャンスだといえる。
「あいつを飛ばしておいてよかったな」
今回のレイスに地方での仕事を与えたのには理由があった。
キルヴァによる手回しがあったからだ。
そうでも無ければこんなに急な仕事が入るわけが無い。
「すぐにレイスのことなんか忘れさせてやるよ、パンコ」
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