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迷走25

 8月1日、勾留取消請求についての審議が釧路地裁北見支部でおそらく行われている中、道下と向坂は北川と詰問していた。本日は佐田の失踪の件の取調べで、北見署組の向坂も取調べに参加していた。向坂は逮捕直後より、北川がかなりやつれているのを感じた。


「おい北川! 弁護士がおまえの勾留を取消しようと画策してみたいだが、裁判所は警察の味方だからな! おまえに逃げ場所なんてないんだよ! 観念してそろそろ本当のことを話せよ!」

相変わらずの道下節ぶしだったが、北川はほとんど反応しないまま下を向いている。向坂が尋ねる。

「北川さん。あんた佐田っていう男を知っているか? 8年前、先代の伊坂組社長に会いに来た後、行方不明になっているんだ。俺はあんたが関わっているとにらんでるんだが、どうなんだ?」

向坂としては威圧的な態度を取っても良かったのだが、道下の後に聞くとなると、自然とやや穏やかな聞き方になってしまっていた。

「おい、なんか言え! わかってんのか?」

道下の顔が北川の顔に付きそうなぐらい近づき、にらみ付ける。

「おう! 聞いてんのかおまえ?」


 裏の倉野はそんなやり取りをしばらく見ながら、そろそろ焦りを感じ始めていた。道下の恫喝を以ってしても、北川はなかなかしぶとく黙秘やかわしを使って、警察の追及をやり過ごしていた。弁護士のアドバイスがなかなか効いているようだ。

「接見の制限を有効活用しないといけないな……」

なるべく松田弁護士と北川を会わせないようにしないといけないと、意識し始めた。その時だった、

「おい、北川、おい!」

マジックミラー越しに道下の恫喝ではない大声が響いたことに、倉野は気付いた。取調室を見ると、北川が机に突っ伏し、それを道下が揺り起こそうとしている。向坂は異変に気付いたようで、取調室の外に助けを要請していた。倉野も取調室に駆け込んだ。

「おいどうした!」

道下への敬語も忘れ、倉野は叫んだ。

「意識がないみたいだ。まいったな……」

そう言いながら、道下が相変わらず北川を揺り起こそうとしていたので、倉野は手でそれを制した。場合によっては悪化させることもあるからだ。

「呼吸と脈はあるみたいです。既に救急車の要請をしてます。消防署はすぐそこですから、時間もかからんでしょう」

向坂が取調室に戻ってくると冷静に言った。

「そうか……」

倉野はやや落ち着きを取り戻した。

「どうなってんだ全く!」

道下はイライラして突然壁を蹴飛ばしたが、倉野と向坂は意に介さず、北川を床に静かに寝かせることに専念していた。


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