迷走22
篠田についての聞き込みでは、本人が死亡しているとは言え、その日のうちにそれなりに情報が集まった。死亡してから、それほど年月が経っていないこともあったが、北川の時の捜査と違い、周辺から知られないように慎重に捜査する必要がなかったため、楽だったということもその理由になっていた。
刑事達は伊坂組にまず直接寄った。日曜ではあったが、数人出社していることを確認した上での行動だった。伊坂組では、北川の件で既に捜索を食らっていたこともあり、素直に情報提供がされた。北川と同様の出世経緯なのは奥田に聞いた通りで、1987年の冬に部長に昇進、1990年に人事部の部長になっていた。92年頃から慢性肝炎が悪化し、93年に肝臓ガンになり、94年3月2日に死去したとの話だった。
部下だった社員に聞より、篠田の人となりについての情報も得られた。はっきり言ってしまえば、余り他人から評判の高いタイプの人間ではなかったと言うのが結論だった。かなり打算的なところがあり、信用に値しないという声が多かった。だからこそ、特別仕事が出来たわけでもないのに、異例の出世を果たしたことが、北川以上に不可思議なこととして受け止めていた人間が、周辺に多かったという話が聞けた。
また家族は妻と娘が一人居て、北見市内に在住していることもわかったが、遺族との連絡がすぐに取れなかったので、その日は周辺の聞き込みだけに留めることになった。
その後、西田と北村の組は病歴・死因について調べるため、掛かり付けでもあり、死亡時まで入院していた北見市内の飯田病院へ行き、それらが事実だったという裏づけを取った。
一方、北川の事情聴取は朝から道下を中心に、北見署の取調べ室でしつこく行われていた。米田の殺人に直接関与していない北川が、米田の遺体の場所を知っていた理由、そして遺体回収の目的などをしつこく聞くも、北川は一貫してそれについては知らないと主張。穴を幾つか掘っていたのは認めたが、それは遺体を回収するためでなく、金を探すためだったと、延々と言うばかりだった。
「なんだ金ってのは? 弁護士の入れ知恵か? だとしたら、全く余計なことしやがって……」
道下が、取調室の裏に陣取る倉野や大友捜査本部長に愚痴を言いに来た。
「いや、よくわからんですよ、我々も」
倉野も困った様子だ。
「あんなところで金なんて採れるわけがないだろ! 聞いたことがないぞ」
「道下、声が大きいぞ。さすがにあっちに漏れる」
大友が、道下が道警本部から来ているとは言え、階級上明らかに上の立場を示すためもあったか、声を荒げる道下を注意した。そして、
「倉野、生田原町役場に連絡取ってみろ。そこならなんかわかるだろ?」
と提案した。
「本部長、今日日曜ですから、役場に人が居ても、それがわかる人かどうかは……」
倉野はそう言うと、大友は、
「そうだ、日曜だったな……曜日感覚がなくなってたよ、スマン」
と残念そうに舌打ちした。その間にも道下は既に取調室に戻り、北川を問い詰めることを再開していた。マジックミラー越しに机をバンバン叩いて北川を脅している道下の姿を見やる倉野。対面の北川は俯きながら、額の汗をぬぐっている。暑いだけではなく、緊張感からの汗でもあるだろう。
夕方の会議では、西田達による篠田についての聞き込み成果が発表されると、倉野は、
「篠田も佐田の失踪に何か関係していることはほぼ間違いなさそうだ」
と言って、ホワイトボードに伊坂組から提供された篠田の写真を貼り付けた。北川の取調べ班からは、新たな北川の主張である「金探し」の報告がなされたが、明らかに取ってつけたような言い訳だという意見が大勢を占めた。




