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迷走17

「ただ、結果的に言えば北川の方が正しいんだよ。何しろ今じゃ重役だからな、伊坂組の。学もあるわけじゃない男が大きい会社の重役をやってるってんだから、人も羨む出世だべや。ただ、逆にそういう成功が、余計に清としては、面白くない部分があるんだろう……」

「ほう、重役にまで登りつめたんですか? そりゃすごいですね、転職して。何か功績があったんですかね?」

もしかしたら何か聞きだせるかもしれないと、西田は畳み掛けてみた。

「いや、それがよくわからねえのよ。突然トントン拍子に昇進したみたいで。親族のはずの清ですらよくわからんと言ってたぐらいで。ひょっとしたらだけど、伊坂組の前の社長がマージャン好きなんで、それが影響したのかもなんてことを言う奴もいたべさ」

「なるほど。社長に取り入ったってわけですか」

「警察のことはわからんけど、世の中『上』に気に入られるってのは大事だべ?」

北村は奥田の問いかけに、

「いや警察も上司との関係は大事ですよ。ただ、警察の場合は昇進試験で点取らないと出世できない点が、他とはちょっと違うかもしれないけど」

と返したが、西田は佐田の失踪事件の絡みが気になったので、

「その昇進した頃の話ですけど、北川さんの様子に何か変わった点はありませんでしたか?」

と更に掘り下げようとした。余りの食いつきに奥田は、

「やけに北川について聞くけど、こいつがどうかしたんだべか?」

と怪訝な口ぶりになった。陽気な老人だが、勘は鋭い。

「いやいや、話の流れで……」

慌てて誤魔化す西田。

「ふーん、そんならいいが……。俺は北川が国鉄辞めてからはほとんど会ってないから、それはわからんよ。ただ、国鉄時代こいつと仲良くしていて、その後も付き合ってた連中からは、昇進するちょっと前から『これからは金を稼ぎまくる』って話をしていたとは聞いたことがあった。あの頃はバブルって奴だったべ? あれで建設も儲かってたから、それが理由だったかもしれんがね」

奥田の回答から、佐田の失踪事件についての北川の関与は、尚更信憑性が増したように西田は感じた。田中と北川への心証はまさに対照的な結果となっていた。


「そうでしたか……。確かにあの時代建設は儲かってましたから。刑事にゃ景気の良さは関係ないんで羨ましい限りですよ」

と当たり障りのない言葉を西田は並べた。

「でも『親方日の丸』の気楽さは、俺もあんたら二人もわかってるべや?」

奥田は悪意のある発言をしたつもりはなかったのだろうが、「刑事とストばかりやってた国鉄職員と一緒にするな」と、多少カチンと来なかったわけでもなかった。しかしそんなことで協力してくれている奥田にムキになるわけにもいかないので、西田はその場を取り繕って、

「そうかもしれません。それにしても話をえらく脱線させてしまってすいません。じゃあ続きをお願いします」

と静かに言った。同時に、西田は聞くべきことは聞いたと考え、後は最後まで適当に聞き流して、世間話でもしながらおいとましようと考え始めてもいた。そしてその計画通り、西田は数人の現状を奥田から聞き続けた。この間にも佐々木と言う保線区員が伊坂組に転職したと聞いたが、かなり早い段階でそこも辞めて実家の農業を継いだはずと聞いたとのことだった。そして更に二人ほど良く知らないという回答を得、その次の篠田道義と言う人物を西田が指した時、奥田の口から思わぬ話が出てきた。


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