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迷走14

 

 7月28日、道警本部の道下が北見に早朝到着し、捜査本部に合流、午前から取調べに参加し始めた。数々の有名事件での取調べで功をあげてきただけに、裏で見守る倉野から見ても、迫力のある取調べとなっていた。


「あんたの車から押収したスコップから、米田の遺体が発見された場所と同じ成分の土が検出されてんだよ! 吉見に撮られたのは、米田の遺体を掘り返そうとしてた場面じゃなかったのか? それなら全部説明が付くんだよ! それにだ、米田の遺体を捜してたってことは、米田があそこに埋められてることを知ってなきゃならない。つまり殺して埋めた人間じゃなきゃわからんだろ。あんたが殺して埋めたのか!?」


 机をバンバン叩き、蹴り上げながら、容赦ない言葉を浴びせ続ける道下の言葉を、黙ったまま受け止める北川。一方的に道下が攻め立てたまま、午前中の取調べは終了することとなったが、最後に北川は弁護士との接見を要求した。




「倉野主任官、どうすんの? 接見認めるの?」

取調べをひとまず終えた道下が倉野に聞く。

「いつまでも認めないというわけにも行きませんから。どうでしょう、明日の午前に認めるということで?」

「甘い、甘い。そんなことじゃ舐められるよ!」

「そうは言いますが、別件の方は問題なく認めてますから、本当はほとんどやることなんてないのは、弁護士にもばれてるでしょうから。そこで接見を認めないとなると、色々やっかいでしょう……」

「現場責任者がそこまで言うならしゃあないな……。弁護士なんか絡む前に、出来れば今日中にゲロさせたいところだ……。さて、そういうことになると、「戦」の前に飯でも食って午後に備えなきゃならんか……」

渋々倉野の意見を認めた道下だが、露骨に不満は隠さなかった。そんな道下が退室するのを倉野はやれやれという顔で見送ったが、北川が落ちれば、それほど長く道下が捜査に介入することもないだろうと気を取り直した。


 丁度その頃、昼食のために出かけた道下と入れ替わるように、西田が倉野の元を訪れた。予期せぬ訪問に倉野は、

「なんだ、捜査の進展でも気になって、わざわざ遠軽から出てきたのか?」

と声を掛けた。

「それは気にならないことでもないですけど、例の北川と田中の件で……。明日奥田に聴取するアポがさっき取れましたんで、北村貸してもらおうと思いまして。まあそのついでに様子を見に来たのも確かですが……」

「奥田ってのは、田中の同僚だった奴か?」

「そうです。取調べが自分の分は一段落付きましたから、予定を前倒しして、その間に動いておくべきと考え直しまして。田中に今直接聞くのを避けようとするなら、奥田が無難でしょう。上手く誤魔化しながら聞くつもりです。それほど期待は出来ることとも思いませんが、一応可能性があることについては確認しておきたいんで」

「わかった。北村についても連れて行ってもらって構わん。今は北川の周辺捜査も、別件段階ということもあり、一部の捜査員しか動いてない状態だし。そもそも大方既に調査済みだからな」

「わかりました。じゃあそういうことで。ところで、取調べの方はどうなってます?」

「道下さんが来て、問い詰めてる段階。今の所は特に動きなし。北川は黙秘したまま」

「そうですか。まあさすがに殺人絡みとなると慎重になってるかもしれませんねえ」

「そうそう、後、弁護士との接見を要求してきたぞ」

「呑みますか?」

「そりゃいつまでも拒否は出来ん」

「別件だとばれますね」

「それは承知の上だ……」

西田は敢えて異論をぶつけてみた。

「うちの竹下が、昨日の取調べ状況で『本件逮捕すべき』と言ってますけど、どう思いますか?」

「竹下か……。あいつなら言いかねんな」

倉野はさもありなんという言い方をしたが、

「手続き的には竹下の言う通りにした方がいいが、そんな真っ当な捜査方法なんざ採ったらバカにされるのが警察って奴だ。おまえもそう思うだろ?」

と履き捨てるように続けた。

「それもそうですね。私も竹下は青いと思います、刑事としては……」

倉野は西田の発言を聞いて笑みを浮かべたが、それは竹下を侮蔑したというより、自嘲に近いと西田は受け取った。



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