迷走13
取調室の裏では、倉野達がその様子を見ていたが、北川がカメラの占有離脱物横領を割とすんなり認めたことに満足していた。
「どうしましょう、このまま米田関連の方までやらせますか? スコップの話も出したことですし」
沢井が倉野にお伺いを立てた。
「難しいところだな……。吉見については、事故死ということで現場状況と比較しても筋が通るし、カメラについては認めた。ひとまず今日はこれについて調書作成して、米田の件は色々時間も掛かるだろうから、今日はここまででもいいんじゃないか?」
と、米田の殺害についてまでは踏み込む必要はないとの見解を倉野は示した。
「そうですか、じゃあ西田呼んで来ますわ」
沢井は裏室を出て、取調室のドアを開けると、西田を手招きし、裏に来るように指示した。
「西田係長、ご苦労。ここまで意外と時間掛からなかったな」
倉田が労をねぎらった。
「ええ、突然別件の取調べが始まったもんで、心の準備が出来てなかったんでしょう。誤魔化しきれないと観念したんじゃないですかね」
西田はそう言うと、タバコに火を付けた。
「主任官とも話したんだが、今日はこれで打ち止めにしようと考えてるんだが、どうだ?」
「主任官と沢井課長がそう言うなら従うしかないですよ、そりゃ。こっちの役割はここまでというのも決まっていましたし」
苦笑する西田。
「分担の話もそうなんだが、米田の件はかなり長くなるから、明日に回す方が中途半端にならないってのもある。流れ的には一気に行きたいところもあるが、ちょっと我慢してくれ」
「そうですね。それほど急ぐ必要もないですし。今日はここまでにしときますわ」
西田は吸ったばかりのタバコを灰皿に押し付けると、すぐに取調室に戻り、吉見の件の簡易的な調書作成を小村に命じた。
※※※※※※※
数時間後、遠軽署の4人のメンバーは遠軽への帰路についていた。吉見の件の取調べは、一度終了し、再逮捕した時点でもう一度本格的に事情聴取するということに決まったからだ。そういうわけで、西田達の北見署での取調べの出番は幕引きとなった。
「それにしても、別件でいつまでやるつもりなんでしょう?」
助手席の竹下が疑問を呈した。
「いつまでって、そりゃ勾留期限ギリギリまでは引っ張るんじゃないか?」
沢井課長が他人事のように言った。
「しかしですよ、今日で吉見の事案での再逮捕は、ほぼすぐにでも可能な状況です。いつまでも北見署に留置しておくより、遠軽に北川を引っ張るべきだと思うんですが?」
「竹下、そんな青臭いこと言っても仕方ないだろ……。持てる時間は出来るだけ使うってのが、捜査の鉄則だ」
西田が呆れたように言った。竹下の正論好きは、西田から見てもやや理想論が過ぎるように、時折思えていたからだ。
「そうは言いますけど、今回は既に弁護士が付いてますから、別件で長引かせると、色々やっかいなことになるように思いますが」
「接見指定して、明後日ぐらいまで接見できないようにすると思うぞ、本部は……」
課長も少々投げやりな言い方だ。
「本件逮捕でも勾留延長使えば十分時間はあると思いますけどねえ。今回は物的証拠も状況証拠もかなり揃ってるのに……」
竹下は不満そうに言ったが、それ以上言っても仕方ないと思ったか、そのまま押し黙った。そんな中、課長が雰囲気を変えようとしたか、
「ところで、明日の取調べがないんだったら、西田、例の田中の件、何とかならんか?」
と西田に話しかけた。
「あ、その話、すっかり忘れてました。でも田中に今、直接聞くわけにもいきませんから、さっきも話したように、しばらく様子見するしかないですよ」
「そうだったな。今にして思えば、さっきの取調べで北川にその件振ってみても良かったかもしれん……」
後悔したような口ぶりの沢井に、
「それはそうかもしれないですけど、米田の件も佐田の失踪も絡んでますから、全部聴取し終わってからの方がいいですよ、結局は」
と、西田はフォローを入れた。しかし、すぐにあることが思い浮かんだ。
「課長、田中の事情聴取の際に、奥田という友人にも色々聞いたことを覚えてますか?」
「ああ、覚えてる」
「田中に直接聞くのはマズイですが、奥田なら色々聞いても、さほど問題にならないかもしれないですよ」
「でも、田中の友人だろ? 話が漏れないか?」
「そこはなんとか上手くやりますよ。それに奥田はかなり話好きで我々にも協力的でしたから、ある程度黙っていてくれそうな気がするんですよね」
「希望的観測だな。大丈夫か?」
「動ける時に動いておく方がいいと思います。これから忙しくなりそうですし」
「そうか……。それなら任せるよ」
沢井はそう言うと、西田の肩を叩いた。




