迷走11
何が起きたのか瞬時にはわからなかったのか、北川はキョトンとした顔をした。
「これがあなたの家から、捜索の際に押収されたものです。因みに任意提出のものなんだけど、この靴の底が、その殺人の現場に残ってた新しい靴跡と一致したんですよ。それで我々はここに来たんです」
西田の発言に、やっと状況が飲み込めたか、
「たまたまじゃないんですか?」
と語気を強めて反論した。
「まあ北川さんの言う通り、これだけなら偶然ってこともそりゃありえますよね。でもね、この靴の底に付着していた土がね、その現場の土の成分と一致してるんですよ。これは偶然なんですかね?」
今度は竹下が揺さぶりにかかった。
「土の成分なんて、同じようなのがいたるところにあるでしょ?」
「いや、北川さん、警察の科学捜査は結構きちんとやってまして、大体の場所の区別は付くんですよ。舐めてもらったら困ります」
「だったらまさに偶然じゃないんですかね。私は山菜採りに行ったりしますから、たまたまその現場に行ったことがあって、それが残っていたのかもしれない。あくまでそれが私のものだったとすればの話ですけど……」
刑事達にとっては、ここで相手が「生田原」という地名を自ら出してくればしめたものだったが、さっきの殺人と同様、なかなか引っかからない。ただ、取調べ開始時より饒舌になってきたのも確かだ。ぼろを出す可能性は出てきている。今度は西田が攻める。
「山菜採りですか。私はやりませんが、好きな人は好きみたいですね。うちの同僚にも好きな人が居まして、非番の日になると、良く採れる場所を知っているらしく、山ほど採ってきて、我々に配ってくれたりするんですよ。ありがたい話ですよ。それはそうと、先ほど、たまたま現場に行ったことがあっただけみたいなことを言ってましたけど、最近はどんなところに山菜採りに行きましたか?」
「いちいち答えないといけないんですかね? 覚えてませんよ!」
「いや最近の話ですよ? それに、山菜採りに行く人ってのは、ある程度自分のよく知っている場所があると思うんですがね?」
西田はしつこく聞いた。北川はあからさまに嫌な顔をしたが、
「美幌峠の方だね、私がよく採りに行くのは」
とふてくされたように返した。
「美幌峠の方ですか。屈斜路湖の眺望が良いですね、あそこは。何が採れるんですか?」
「今の時期だと、ギョウジャニンニクとかタケノコ(北海道でタケノコとされるものは、本州でいうところの笹竹に当たるものです。いわゆる竹林は北海道には道南の一部を除きありません。それも移植されたもの)かな……」
渋々ながら西田に答える北川の顔は、いつの間にか少し紅潮し始めていた。
「タケノコですか。いいですねえ。でも山で採れるものは山菜だけじゃなく、時にもっと高いモノもあったりするみたいですね、北川さん」
そう言うと、西田は再び椅子の後ろからカメラを取り出して、北川の目の前に置いて見せた。さすがにこれには北川も思わず目を見開いて、
「ウッ」
と声を出してしまった。
「これわかりますよね? カメラ。あなたが会社の部下にあげたモノです。その点についてはもう調べが付いてますから、否定しても無駄ですよ」
西田のまなざしは少々意地の悪い光を発していたかもしれない。




