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迷走8

松重は幸いすぐに捕まった。ホテルのロビーに丁度居たのだ。西田が喋ろうとする前に、松重は開口一番、

「西田さん、こっちから電話しようと思ってたんですが、調査会の遺骨採集やってもいいんですかね? 事件のこともありますし、予定を一度白紙に戻して遠慮してたんですが?」

と切り出した。確かに当初の予定では7月にするはずだったことを西田は思い出した。

「ああ、うっかりしてました。すいません。もうちょっと待っていただければありがたいんですが。まだ事件も解決してませんから」

「ああ、そうですか。でもそうなると下手をすると今年はもう無理かもしれないってことでしょうか?」

「いや、そこまで酷いことにはならないと思いますよ」

当然西田は、北川を落とせば事件は粗方解決するものだと言う自信があった。

「いやそれならいいんですが。わかりました。しばらく待ちますよ。こちらは急ぐことでもないですから。問題なくなったら、西田さんから電話ください」

「その件についてはわかりました。それでですね、お電話したのは、その件ではなく、例の田中さんのことなんですが……」

「あれ、それは既に問題なかったはずじゃあ?」

「そうです。なかったはずだったんですが……。新たな問題が発生しまして。それでちょっと確認させてください」

「こちらは構いませんよ」

「田中さんが、松重さんに調査の必要がないと言った時、どんな感じでしたか?」

「直接会って話したわけではなく、電話での会話でしたが」

そう言うと、松重はしばらく沈黙した。おそらく当時の会話の様子を思い出そうとしているのだろう。そして、

「もしもし、すいません、私が『今度の調査は生田原側を重点的に』と言うと、田中さんは、『いやその必要はない。俺達が昔ちゃんとやったから』という話をしてきまして」

「はい、それについては前回聞いてます。問題はその言い方といいますか、松重さんがそれを聞いた上でも、調査をすると主張されたんですよね? それで田中さんはどういう態度でしたか?」

「『それでもやってみましょう』と私が言いましたら、田中さんは、『正直、余り成果は見込めないが、会長がそこまで言うなら、私も止めませんよ』という感じでしたね、確か」

「それはあっさり引き下がったということですか?」

「ええ、割とこっちの意見を素直に聞いてもらったはずです」

西田はそれを聞くと、かなり複雑な心境になった。ある程度しつこく中止を要請したのなら、田中は北川に協力した可能性も出てくるが、松重の証言を前提にすると、そういう可能性は低くなる。義理の息子のためならば、もっと食い下がるだろうと思えたからだ。

「そうですか……」

「何かまずいんですかね? それだと」

西田が返答に詰まったのを察したか、松重が探ってきた。

「いや、まずくはないんですよ。ただ確認したかっただけです。わかりました。後、調査の日取りの件ですが、また何か進展がありましたら連絡しますんで。無責任な言い方ですが、捜査が忙しくて、ひょっとすると忘れてるかもしれないんで、松重さんももし連絡が来なくてイライラするようなことがあれば、こちらに問い合わせていただければ」

「はい。わかりました。捜査の件頑張ってください。こちらも早く採集できますから、解決祈ってますよ」

「お気持ちありがたいですよ、本当に……。それにしても忙しい時にすみませんでした。ひとまず失礼します……」

西田はそう言うと受話器を置いた。

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