迷走7
「おい、本当か!?」
西田は思わず大きな声を上げてしまったため、本来独り言だったにも関わらず、他の刑事達も一斉に西田の方を見た。しかし西田はそれにいちいち反応する余裕はなかった。もう一度その名前を凝視するが、間違いない。
「田中清」、名前だけではない、住所も一致していた。紛れもなく、常紋トンネル調査会の古参会員で、一時容疑者扱いした人物である。その田中が北川の義理の父、つまり田中の娘が北川の妻の加奈子だというのだ。西田は30秒ほど混乱したが、その後はすぐに田中への事情聴取の時の場面が思い浮かんだ。確か、田中が実際に生田原側の調査をしたかどうかを証言できる人物がいるか聞いたとき、「娘婿」と言い掛けたのを西田が制した場面だ。そして北川は伊坂組に勤める前は国鉄の職員だった。田中も国鉄の保線区員であった。二人の間には姻戚だけでない接点があったのだ。いや、姻戚になった理由も、二人が職場の先輩後輩だったからかもしれない。
そして西田は思い出したかのように自分の机の引き出しを乱暴に引き出すと、そこから慰霊式典の冊子のコピーを取り出し、出席者を確認した。上から指でなぞりながら、逐一確認していくと、国鉄の保線区職員の欄に「北川友之」の名前を発見するのにそう時間は掛からなかった。西田が以前、北川の名前について何故か見覚えがあったのは、この冊子に名前が載っていたからだったのだ。西田は、大きくため息とも深呼吸とも取れるような息を吐くと、そこにある他の出席者の「伊坂大吉」に目線をやった。田中と北川、そして伊坂。少なくともこのうちの田中と北川は繋がった。そして北川は後に伊坂の元に勤めることになる。米田の行方不明になった場所、殺害されて埋められていた場所も式典が行われていた所とほとんど同じ地点だ。そこに何かあるのか?西田の頭の中はさまざまな可能性を瞬時に模索していた。しかしここでちょっと考えた程度で正解が出るわけではないことに気付くまで、そう時間が掛かることはなかった。
「課長、妙な事実が出てきました!」
西田は落ち着きを取り戻すと、課長に声を掛けた。
「どうした?」
「以前、常紋トンネル調査会の田中清という人物を事情聴取したことを覚えてますか?」
「ああ、事後報告だったが、シロだった奴だな」
「そうです。生田原側の調査についてやる必要がないと主張して、調査をやめさせようとした人物です」
「それは問題なかったんだろ?」
「ええ、確かに。ただ、なんとその田中が北川の義理の父だったんです!」
「いやいや、西田よ! それは本当か!?」
沢井もかなり驚いた表情を見せた。その場にいた竹下達もいつの間にかこちらを注視していた。
「ええ、間違いありません。住所も一致してますから」
「ということは、田中と北川はグルだったってことか?」
「いやまだそこは微妙です。松重の話も田中の話も、どうも強硬に遺骨採集の中止を主張した感じはしなかったんですよねぇ。もし田中が妨害目的での主張をしたとするなら、そういう部分が見えてきても不思議じゃないと思うんです」
「ただ、それはおまえの印象論だろ?ちゃんと確認しないといけない」
「わかってます。今からすぐに松重さんに、田中がどういう言い方をしたのか確認します」
西田はそう言うと、すぐに沢井の方に向けていた身体を反転させ受話器を持ち上げた。




