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迷走6

 しかし、西田からしてみると、必ずしも歓迎できないこともあった。取調べには、道警本部から刑事部捜査一課強行犯第三係長の道下孝三郎という人物がアドバイザーとして応援に来ることが決定していた。この道下は道警の刑事ではかなり有名な、いわゆる「落としの~」の代名詞で呼ばれるタイプの刑事で、数々の事件での取調べで犯人を自供させた功績を持っていた。ただ、年配の刑事にありがちな思い込みの激しいタイプという噂もよく聞く刑事で、かなり頑固な職人肌らしい。刑事の勘や経験は事件解決に大きな貢献をすることもあるが、逆に捜査が硬直化し、あらぬ方向に行くことも多々ある。それが酷い場合には冤罪などの発生を生むこともある。特に昭和30年代、40年代はこの手の捜査方法での有名冤罪が多く発生していた。


 そういうタイプの刑事がやってくるということは、取調べの方向性が勝手に決められる恐れもあり、非常にやりづらくなるかもしれなかった。特に、捜査に今まで参加していなかったのだから、いきさつや流れを理解しないまま、個人の考えを押し付けられたら、これまで捜査していた側としてはたまったものではない。


 これは西田だけでなく、捜査本部全体の感覚でもあった。倉田事件主任官も、道下の捜査参加を発表した際に、

「多少やりづらくなるかもしれないが、本社(道警本部)からのお達しだから、拒否するわけにもいかない。みんなには我慢してもらうこともあるだろう」

と本音を語ったことからも明らかだった。


 ただ、いずれにせよこれまではかなり自由に捜査できていたことを考えると、これでも十分恵まれていた方だと思い直し、明日以降の取調べをどうするかに頭を切り替え、気持ちも前向きにしていこうと考えることにした西田であった。



 

 7月27日午前10時、西田は遠軽署捜査本部にて、午後からの北見「遠征」に備えていた。午後には裁判所から勾留請求を認める判断が出るだろう。ただ、勾留については、北川が完全に罪を認めている以上、弁護士としては準抗告(取消請求)により、勾留について、不要として不服を申し立てる可能性がなくはない。しかし、その上で松田弁護士はその点については割と現実的な判断をしてくると捜査本部では見ていた。まず裁判所の判断は覆らないからだ。松田は人権派弁護士ではないので、そういう建前論での無駄な争いは避ける可能性が高いとにらんでいるのだ。実際過去の彼の弁護行動を見ても、そういう傾向にあった。


 そうなると、順調なら夕方には取調べが可能になるはずだ。そのため、勾留請求が認められた時点で、すぐに北見に向かう準備をしていた。勿論準備とは、取調べの手順確認も含んでいた。一緒に取り調べるのは主任の竹下。記録員には小村を抜擢した。沢井課長は裏から取り調べの様子を見ながら、場合によっては指示を出すことになっていた。


 そんな中、昼前にファックスが作動した。黒須がそれを取り出すと、早速コピーして遠軽署のメンバーにそれぞれ渡した。中身は平尾の取調べ調書と北川の家族・交友関係の完全な情報だった。北川の身辺調査については、逮捕する前には余りおおっぴらにできなかったこともあり断片的だったが、逮捕以降は完全に把握することが可能になったからだろう。


 平尾の調書を読む限り、カメラを北川から受け取った後、綺麗に掃除したとあり、北川の指紋が発見されなかったのは、おそらくそれが理由だと推測された。ただ、北川から渡された時点で、カメラは紙袋に包まれていたということから、その時点で既に北川が指紋を拭き取っていた可能性もゼロではないと西田は感じた。そして、レンズの、カメラ本体との装着部分に吉見の指紋が残されていたのは、平尾の拭き取り行為を見る限り、かなり運が良かったと言わざるを得なかった。


 もう一方の北川の関係者の情報は、北川と取り調べする際に役に立つ可能性があり、西田は事前に頭に叩き込んでおこうと、平尾の調書を読み終えた後、自分の席でじっくり眺め始めた。しかし、読み始めて1分もしないうちに、ある名前に目が釘付けになった。


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