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迷走5

「みんな、ちゃんと中身見たか? よし、問題ないな?」

倉野は捜査員達の顔があがるのを確認すると、話を続けた。

「先日北見署の向坂係長から聞いて、ある程度はわかっていたとは思うが、伊坂組絡みの8年前の事件の詳細は、今渡した資料に書いてある通りだ。それで、今回まさに偶然だが、マル被の北川がこの佐田の失踪の後、突然の出世を果たしている。そして、米田の3年前の殺害にも、ほぼ確実にその北川が関わっている。米田殺害の動機、北川と米田の関係性が釈然としない中、タイムラグが約5年あるが、ここに何か関係があるかないのか、そこが我々の関心事になってくるわけだな。ついでだが、今回改めて生安課に問い合わせたところ、失踪から7年経った昨年の9月に、佐田の家族により失踪宣告(民法30条・31条)がなされ、民法上は既に死者扱いになっているという回答を得ている。北見署も、佐田の行方がつかめることはもうないだろうという諦めの境地のようだ。おそらく死んでいる、いや、もっと言うなら殺されている可能性が高い。経営していた会社も資金繰りに行き詰まり、倒産したようだ。家族としては踏んだり蹴ったりだが、まあ今となってはどうしようもないな」

倉野は、熱弁しているうちに暑くなったか、資料を団扇代わりに扇ぎながら、話を続ける。

「というわけで、ざっとだが、3つの追及すべき件があることを今おさらいした。それぞれについて、これから北川を取り調べるわけだが、まずは1つ目の吉見の件では、現状でも十分逮捕できるレベルなので、これについてまず、やっつけてしまうのが妥当だろう。どうですか、本部長、これは遠軽署に丸々任せて問題ないですね?」

「こっちはそれで構わんよ」

大友は一言で済ませた。

「じゃあ、沢井課長、そういうわけで一番槍は遠軽署でよろしく頼む」

「わかりました。任せてくださいとまでは言いませんが、全力を尽くします。今回の立役者、西田中心にしてやっていくつもりです」


 いきなり、課長に名前を出されたので、西田はビクっとした。米田の遺体発見までの一連の捜査は、西田自身は勿論、遠軽署の刑事全員で当たってきただけに、課長にその中から特に推挙してもらったことは、やや気恥ずかしい面もあったにせよ、素直に嬉しかった。刑事になってから十数年になるが、ここまで捜査を主導する形で大事件に関わったのは、初めての経験だったのでやりがいも違う。もしこの事件をクリアー出来れば、これからのキャリアにも大きく影響するであろうことは重々承知していた。


 一方で、米田殺害の件と佐田の失踪については、北見方面本部組の主導により取り調べが行われることになった。正直、米田の件も遠軽署が掴んで発覚した事案だけに、本来なら吉見の件同様遠軽署が取調べにも積極的に関わってしかるべきと、西田は考えていた。否、もっと言うなら、この件こそ西田達が積極的に動いた故に発覚した事件だけに、吉見の不審死以上に関わる資格があるはずだと思っていた。しかし、上位組織が優先されるのは警察の常であり、吉見の件だけでも任せてもらっただけありがたいというのもまた、否定できない事実だった。


 また佐田失踪についての取調べには、捜査に加わっていた向坂が、当時の経験を買われて加わることになった。他の所轄からの応援刑事が取り調べにも関わるというのは非常に珍しいが、倉野は向坂の腕を組織のメンツよりも重視したのかもしれないと、西田は考えていた。だとすれば、これは倉野の前例踏襲主義を壊す、いい試みだと言えた。

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