迷走3
「で、いよいよ本題の米田の殺害に関してだ。我々の捜査の主目的がこれの解決であることは言うまでもない。これについてはみんなも特によくわかっているとは思うが、一応確認しておくぞ。1992年8月10日、米田雅俊・当時23歳が、宿泊中の生田原の民宿「やまのさと」において、『常紋トンネルに鉄道の撮影に出かける。夕食までには戻る』と言い残し、そのまま戻らず行方不明になった。その後、遠軽署や地元住民等による山狩りを行うも発見できず。それが今年の6月15日、吉見の死とカメラの盗難に絡んで、現場付近を捜索していた沢井課長達に発見され、殺人事件として当帳場(当捜査本部)が立ち上がったわけだな。それで、吉見の死に絡んだ人間が、常紋トンネル建設で犠牲になったタコ部屋労働者の遺骨収集作業での偶然の事件発覚を恐れ、事前に米田の遺体を掘り返そうとして、現場付近に5月下旬辺りから頻繁に出現していた可能性が出てきた。その後の捜査結果は、敢えて言わなくてもわかっているだろう」
そう言うと、一度資料から目線を上げ、捜査員達の様子を確認するように端から端までじっくり眺めた。
「常識的に考えて、死体が遺棄されていた場所を知っていたということは、米田の殺害、死体遺棄についても何らかの関与を行っていた可能性が高いわけで、北川は殺人についての重要参考人でもある。どう関わっていたのか。殺人においても関わっていたとすると、その動機の解明もかなり重要な要素になる。何しろ米田に殺される理由が全く見当たらない。今の所、米田は何か事件に巻き込まれたのではないかという前提でやってきたから、その殺害要因は北川が知っているのなら、きっちり聞き出すことが肝心だ。これはこの次に話すこととも関わっている可能性があるが、それはそっちで話そう。話を戻すと、その殺害要因が新たな事件の発覚につながることも念頭に置いて取り調べをして欲しい。後は共犯がいたかどうか。これも重要だ。えー、それじゃあ次の話に行くぞ。これは今までしてなかった細かい情報もあるから、資料のコピーを配った上で話すことにする。まあ細かいことは、それを見てくれればわかると思う」
倉野はそう言い終えると、持ってきた資料のうち、封筒の中から紙の束を取り出し、捜査本部幹部、捜査員に配り始めた。資料は、1987年の佐田実の行方不明事件についての、北見署・北見方面本部が当時作った捜査資料だった。




