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迷走2

 そして、咳払いをすると、再び喋り始めた。

「というわけで、明日の午後にはいよいよ我々の捜査が始まる。ここからが勝負になるのは言うまでもない。それでは……」

そう言うと、倉野はホワイトボードの前に行き、詳しく説明を始めた。


「まず、今、北川に確認すべき事案・事件は大まかに言って3つあるから、それらについての概要を簡単に確認していくぞ。第一点は吉見の死とカメラの窃盗、これだな。ああ、後、事前に言っておくが、質問は後でまとめて受けることにするから」

そう言うと、ホワイトボードに吉見の写真を貼り付け、マーカーで必要事項を書き出しながら、沢井に話を振った。

「沢井課長、吉見の死についての遠軽署の見解は、ほぼ事故と見ているってので合ってるな?」

捜査本部は米田殺害事件の一連の事件として、吉見の事件も重要案件として扱ってはいるが、捜査本部は基本的に米田青年の殺害についての捜査が主目的であって、吉見の死亡事案はその切欠という意識が強く、吉見の件はほとんど遠軽署がした捜査結果を踏襲していた。そのため、この事案については上位組織である北見方面本部も遠軽署にほぼ任せきりだったのだ。

「そうですね。ただ、吉見を何らかの脅迫的な行為を伴って追い掛け回して、そのために吉見が躓いたとなると、傷害致死(暴行の概念は一般的な概念より、法的概念の方が広く、直接的に身体への接触がない場合でも暴行となる。そして、暴行により致死、致傷が起きた場合、暴行の故意があり、傷害の故意がなくとも、傷害罪、傷害致死罪になるのが通例である)の可能性もありますし、現場の足跡等の状況からは考えにくいですが、直接的に吉見を石に叩き付けた場合にも当然そうなりますね。後はその場合には殺人の故意、或いは未必の故意があれば、殺人罪が適用されることもありえますが、まあ北川が自分で認めるならともかく、客観的にそれを証明するのはかなり難しいと思います。あと気をつけないといけないのは、吉見の不審死については、マスコミは一切報道してません。これは被疑者の秘密の暴露と関係してきますから、ここも取調べの際に抑えておきたいところです」

「なるほど。ただこちらとしては、事故と言う前提では捜査する必要はないわけだから。あくまで可能性としては持っておくべき事案だ。取調べもそのつもりで行う必要がある。マスコミ報道の件も重要だな。これも取調べの際には気をつけてくれ。それからカメラについては、既に吉見のものだと断定できたから、これを北川が生きていた吉見から盗ったか、或いは死んだ吉見から(占有離脱物)横領したかということになるだろう。検死結果では、確率的には即死か即死に近いので、取調べの結果次第だが、横領の方が有力だろう。また、おそらく初期段階では、どこかに落ちていたとか、誰か知らない人物から譲り受けたとかそういう言い訳話になってくる可能性が高い。そこは、北川が吉見の死亡現場に居たという証明が必要になる。既に下足痕は一致しているから、科警研からの土の成分、これはスコップも含むが、それにより徹底追及すれば問題ないだろう。えーっと、で、後、気にしないといけないのは、なくなったフィルムの行方と何が写っていたかだな。これについての遠軽署の見解を、沢井よろしく」

「基本的には、おそらく北川が米田の死体を回収しようして現場に潜伏していたことに、どこまで吉見がわかったかは推測の域を出ないが、気付き、写真を撮影したということが想定されますね。当然夜ですからフラッシュが焚かれて、それに北川が気付いた可能性がある。北川はそれを阻止しようとしたか、或いは確認しようとしたかで、吉見の方向へ近づく。それに気付いた吉見が驚いたか逃げようとしたかで、躓いて死んだ。勿論これについてはどういう状況だったかは、先ほども言ったように、色々考えられるわけです。それで死んだか虫の息だった吉見から、北川はカメラを奪ったということですね」

沢井が説明を終えると、西田が補足のために挙手した。

「西田何かあるか?」

倉野が西田を指名し、発言を許可した。

「その吉見の件ですが、吉見は北川を人間として見てはいなかった可能性も考慮しておきたいです。あそこは常紋トンネルと言う、心霊現象のメッカですから、北川の動き、明かりなどで、なんらかの幽霊現象と見て、吉見がそれをカメラで撮影しようとしたこともありえます」

「それは聞いてはいたが、本当にそうだったとしたら、吉見もとんだ災難だな。こればかりは仏さんになっちまった以上、本当に推測でしかわからんのが残念なところだ。ただ、どちらにせよ、吉見が北川について何らかの撮影をして、それが引き金になって死んだというところまでは、おそらく実像に近いだろうな。とにかくここまでは、既にカメラについての犯罪だけで逮捕できるレベルにあるから、安泰だろう」

倉野はそう言うと、資料をめくり、次の事案について必要事項を書きながら、被害者・米田の写真を貼り終えると再び話し始めた。


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