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迷走1

 7月26日、長机とパイプ椅子がズラっと並んだ北見方面本部の第三会議室で、西田達は捜査会議が始まるのを待っていた。時計は既に11時過ぎを指していたが、捜査本部のお偉方の姿はまだ見えていなかった。外を見ると、曇りのせいかそれほどの陽の差し込みは感じられなかったが、いつもはからっとした北見地方には似合わない湿度の高さがあった。

「明日は雨かもしれないな」

と、西田は横にいる北村に喋りかけた。

「ええ、ここのところ雨が降っていませんでしたが、昨日の夕方あたりからなんとなく曇って、湿気がありますよね。天気予報はどうだったかな」

と頷く北村。


 そんな世間話のキャッチボールを数回行ったところで、北見方面本部長の園山を先頭にして、捜査本部長の北見方面本部刑事部長・大友、捜査副本部長の槇田遠軽署長、北見方面本部捜査一課長・捜査本部事件主任官である倉田、比留間北見方面本部捜査一課管理官の順で室内に慌しく入ってきた。席に着くや否や、大友本部長の第一声は、

「遅れて申し訳ない。鑑識から連絡があったのでそちらに時間を割いていた。まずはカメラの指紋の件だが……、吉見の指紋が検出されたそうだ」

というものだった。

多少室内がざわついたが、気にせず大友は話を続けた。

「北川の指紋は出なかったらしいが、譲られた方が拭いたからなのか、北川が拭いて譲ったのか、そこについては、平尾?という人物に事情聴取しないとわからんな。いずれにせよ、早い段階でカメラを譲り受けたことの証言含め参考人聴取はしないとな。また、スコップからは当然だが北川の指紋が検出された。これは北川の車から出てきたのだから、予定通り。それじゃあ、以降の説明は倉野から」

振られた倉野事件主任官は、

「では、今後のスケジュール確認……」

と言ったところで言いよどむと、持ってきたファイルの中から多少慌てるように資料を探した。その間20秒程探していたが、無事発見すると、

「失礼。北見署の交通課は本日午後に、北川を検察に送致するつもりのようだ。予定では昼前には送致するつもりだったらしいが、北川が逮捕前日に飲んだ飲食店の参考人調書の作成に手間取ったらしく、若干遅れるらしい。まあ検察官は今日中に勾留請求してくれるだろうから、明日には裁判所が勾留を認めるだろう。我々が気になるのは、勾留中の家族との接見がどうなるか。当然検察には接見禁止を請求するように求めているが、裁判所がこれを認めるかどうか。本件事案ならともかく、別件事案だと家族との接見禁止まで認める根拠が薄い。飲酒運転事故とは言え、軽微で本人も争ってないからな。そうなると、ちょっとやっかいなことになるな。別件での取調べがされていると家族に知られた場合、なんらかの証拠隠滅行為が行われる可能性がある。弁護士の場合にはそこまで危険は冒さないだろうが、家族となると話は違ってくる。もし認められなかった場合、即、カメラの件での再逮捕が妥当になるだろう。勾留期間を考えれば、出来れば飲酒事故で時間を稼いでおきたいのは確かだが……。まあ多分別件の意図はなんとなく裁判官にも伝わってるだろうから、大丈夫だとは思う」

と、立て板に水で喋り、そこまで言うと、一息付いたかのようにお茶で喉を潤した。


※※※※※※※


 本来であれば、軽微な犯罪で、被疑者が事実関係において争っていない場合、わざわざ勾留する理由は、逃亡の危険性や証拠隠滅(この場合であれば、別件の飲酒運転事故におけるそれ)の恐れでもない限りは無意味なのだが、現実においては裁判所が検察・警察側の主張を退けることはまずない。今回においては、軽微とは言え、飲酒運転並びに業務上過失傷害というケースなので、勾留自体を一種の行政「懲罰」として機能させている側面が、ある意味通常業務になっていると言える。

 また、現実問題として、相当軽微な事案でも、認める認めないを問わず、別件逮捕としての性質を持っている場合には、まさしく検察・警察側の胸先三寸で完全に不必要な勾留が決定されることも多々あるのが現実である。検察・警察側はそれを表沙汰にはしないが、裁判所側も明らかにその意図を理解しているのは、過激派やオウム真理教信徒が、通常ではあり得ない相当軽微な犯罪で逮捕勾留されていたのを見ても明らかであろう。

 北川の事案はある種の別件逮捕だが、別件自体としても単独で勾留が決定される性質の事件であることは、上記の理由により捜査本部も認識していた。


※※※※※※※

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