鳴動55
工具置き場に案内された高木率いる6人は、その数や種類の多さに圧倒されていた。
「これは北川が使っていたものがあったとしても、特定は無理ですよ」
吉村は高木に耳打ちした。
「うーん」
と高木も唸るだけだった。澤田はツルハシの所に行って眺めていた。ツルハシと言えば、単に北川が今回穴を掘るのに使ったかもしれないというだけでなく、3年前の米田の殺害に凶器として使用された可能性もある。もしそれがこの中に残っていた場合には、血痕の採取は既に不可能でも、頭蓋骨に残された傷と先端部分が一致する可能性はある。そういう意味では出来ればサンプルとして持ち帰りたいところだが、全部同じに見えて、微妙に違っているようにも見え、選別するのはまず不可能だろう。かと言って全部持ち帰るのは、飲酒運転の捜査では無理がある。
「ダメですね。本件での捜索なら全部持って帰って、土から調べられますが」
澤田はそう高木に報告した。
「わかった。仕方ない。こっちは今日の所は成果なしということだ」
ある程度は想定していたことだったので、ショックはないが、本件での捜索令状が許可される前に処分される可能性がある。それを考えると焦りもあった。
竹下は倉野達が捜索している役員室に入った。慌しく机やキャビネットを開けて、捜査員が色々めくって調べたり、ダンボールに押収している最中だった。秘書と見られる若い女性が不安そうにそれを見ている。腕を組んで捜査を黙って見ている倉野に
「主任官、カメラは部下が持ってました。これから回収します」
とさりげなく言うと、
「よしよし」
と口だけ動かす。
「こっちはどうですか?」
と、吉村が問うと、
「ここ1年ぐらいの情報はあるみたいだけど、それ以前は残ってないようだ。残念ながら」
と答えた。
「そうなると、今回の件だけですね」
「そういうことになるな。あと健康状態だが、実際に高血圧は多少あるみたいだな。人間ドックでも指摘されてるらしい」
「それで病院通いはしてない?」
「いや、昨年はちゃんと通っていたこともあるようだな。一時期よりは良くなったのでやめたようだ。今年については健保組合の方のデータは既に持ってるから、通ってないのは明らかだから」
倉野はそう言うと、一言二言指示を出し、
「ところで、高木達の方はどうなってる?」
と聞いた。
「いやそっちはわかりません」
と竹下が言い終わるか終わらないかのうちに、高木が急いで入ってきた。
「だめですね。数がありすぎて、どうにもなりません。スコップもツルハシも」
多少息切れしながら、絞りだすように言った。
「わかった。仕方ない。とにかくカメラだけは弁護士が来る前に確保してくれ。それが今日のメインイベントだ。頼むぞ」
表情一つ変えず、視線も合わせず倉野はそう言った。




