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鳴動52

 倉野一行は午後3時半前には伊坂組の前に到着していた。物々しい屈強な男達が自分の会社の駐車場に車を駐め、集まっている様子を訝しげに見ていた社員と思われる女性の姿が刑事側からも見えた。倉野は時計を確認すると、

「よし、じゃあ行くぞ!」

と気合の声を発し、ドカドカと事務所のドアに突進した。

「警察です。お宅の北川専務の今朝の飲酒運転による人身事故の件で、捜索させてもらいます」

と令状を掲げる倉野。事務所の中が一気にざわめく。

「すみません、ちょっと責任者を呼んできます……」

と40代前後の男性社員がおどおどしながら声を上げた。

「それは構いませんが、同行させてもらいます。後、他の方はその場を動かないで!」

倉野は目配せすると部下にその男性に付いていく様に指示した。万が一に証拠を処分されないように先に手を打つ。しばらくすると、室内に年配の男性がやってきた。上階から降りてきたようだ。

「副社長の三田です。出勤前に北川専務が逮捕されたのはこちらにも連絡が来てますが、会社も調べるんですか?」

と口ごもった。責任者が誰か視線を泳がせながら見極めようとしているようだったので、倉野は、

「私が今回の捜索責任者の北見方面本部刑事部捜査一課長(事件主任官は捜査本部内での役割)倉野です」

と警察手帳を見せた。すると三田は名刺を取り出して渡し、

「それで、具体的に何を調べるんですか?」

と質問した。倉野はもう一度令状を見せながら、

「北川専務が飲酒運転を常習的に行っていた可能性がありますので、私物、勤務状況、健康状態のチェックをさせていただきたいと思い、物品、書類等を押収させていただきます」

と回答した。

「いやあ北川専務が日常的に飲酒運転していたとはにわかには信じられませんよ。彼は一度飲酒運転で罰金食らって以来、かなり気をつけていたと、私に話してくれたことがありますから……」

と不満そうな口調の三田。

「いや、それは警察が調べることですので。とにかく捜索させてもらいますから。ところで副社長さんでいいんですか? 立会いしてもらうのは。社長さんはいらっしゃらない?」

「社長は今外出中ですので、そういうことなら私が立ち会います」

倉野は伊坂組についてある程度情報を持っておくため、社長の顔も見ておきたかったが、そういうことならば仕方ない。

「そうですか。じゃあ立会いお願いします。ところで三田さんは最近の北川専務について何か変わったことは聞いてませんか?」

「変わったことですか? 最近高血圧で病院に通ってるとか言う話で、来るのが遅かったりしてたようですが……。それぐらいですかね」

「そうですか」

倉野は、三田が北川の動きをどの程度把握しているかについて探りを入れてみたのだ。会社の役員が遅刻を繰り返すとなると、ひょっとしたら会社も北川が何をやっているかわかっていたのではないかと、8年前の失踪事件の絡みでふいに思ったからだ。直後、

「あ、それから弁護士さん呼んでもいいですよね?」

と、三田は予測どおり顧問弁護士の立会いを要求してきたが、これは想定内の事案だった。それどころか松田弁護士が今日網走に出張しており、緊急に引き返してきても1時間以上はかかることは、既に午前中の段階で捜査本部は把握していたのだ。それも迷った挙句に本日ガサ入れを仕掛けた隠れた理由になっていた。弁護士が立会うと、捜索や押収において、令状を厳密に解釈し、制約される方向にもっていかれる可能性が高いからだ。

「ええ、お好きにどうぞ」

倉野は至って冷静に言い放ち、

「それじゃあ案内してください」

と続けた。

「じゃあこちらです……。藤本君、役員室に案内してあげて」

と三田は女子社員を指名すると、ダンボールを抱えた捜査員と三田、倉野がその後を追った。


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