鳴動51
北川家捜索班が、臨時的に捜査本部「出張所」が立った北見方面本部の室内に戻ると、伊坂組への捜索令状が丁度発行されたところだった。今回は顧問弁護士がいる企業相手だけに、素人相手のガサ入れよりは面倒なことになる確率が高い。ガサ入れの指揮は倉野事件主任官自身が執ることになったようだ。伊坂組関連の失踪事件も追っていた向坂がいるので、相棒の竹下、そして吉村、澤田、大場の組はこちらのガサ入れに参加することになった。
一方で北川家を担当した西田達は、北川家から押収したブツを鑑識に届けると、現行犯逮捕の際にそのまま押収して、北見署に留置されている北川の車について、今度は調べることになっていた。ただ、車は吉村達が北川逮捕時に粗方調べているので、仕事は細かい部分の調査になるだろう。午後3時過ぎに倉野軍団の「出陣」を見守ると、西田達は自分達の仕事に取り掛かかるため、駐車場に向かった。北見署と北見方面本部は近接しているので、時間は掛からない。
北見署の駐車場に駐められていた北川の車はセダンタイプの高級車だった。既にトランクやダッシュボードの中身は押収済みであるから、車に残された簡単には発見できない遺留物、具体的に言うなら、毛髪や土などの採取が主な任務になる。特に土の採取は、北川が現場に行ったことの重要な証拠であるから、靴のものと同様、徹底的に調べる必要があった。車の中に何人も入れないので、4つそれぞれのドアから4人が上半身を突っ込み、しらみつぶしに採取していくという地味な作業だ。西田はトランクに細かい遺留物がないかチェックしていた。沢井課長は外からそれを指揮監督する。
「どうだ、土は結構ありそうか?」
沢井が車から計8つの脚が生えているという異様な光景を前にして、車の中を覗き込みながら聞いた。
「運転席のフロアマットには結構あります。ただ色んなところの土と混ざってると分析できるんですかね?」
黒須が胸をシートに突っ伏しているので、苦しそうな声を出しながら答えた。
「そこら辺は科捜研に任せておけば大丈夫だ。西田の方はどうだ?」
「こっちもスコップについていただろうと思われる土が結構残ってます」
「そうか。まあスコップ自体に土も結構残っていたようだから、それはそっちだけでも十分だろう」
「シートの遺留物は徹底的にやった方がいいんですかね?」
黒須と組んでいる北見方面本部の町田という刑事が沢井に問う。
「今のところ何か事件に関係する人や死体を運んだという前提がないから、西田のトランク含め、必要以上に神経質になる必要はない。ただ、念のため手抜きはしないでくれ」
「わかりました」
結局1時間以上かけて、車内やトランクの遺留物、付着した指紋を採取し、こちらも北見方面に戻った後、鑑識に届けた。後は倉野達の捜索結果を待つだけであった。




