鳴動48
「それはわかりましたけど……。どうして飲酒運転でうちを調べるんですか?」
声は若干震えている。西田から見て、加奈子はおそらく40代半ばに見えた。小奇麗なタイプの女性だ。
「ご主人は今朝家から出て、その直後に事故を起こし、その時点で呼気に基準値以上のアルコールを検出したわけです。当然、家でお酒を飲んでその分が残っていた可能性がありますから、その関係での家宅捜索になります」
菅原は立て板に水を流すように、最初から用意していた理由を告げた。勿論、北川が前日に接待で酒を飲んでおり、おそらくその分が微妙に残っていたのだろうことも推測していたが、そんなことは知らない振りだ。
「主人は昨日は外で飲んで、家ではお酒は飲んでいませんが」
妻は精一杯の抗議をした。
「いやそれはこれから調べますから。奥様には捜索の間立ち会っていただきますので、よろしくお願いいたします」
菅原は多少イラつきが見えるしゃべり方になってきた。息子の弘之らしき人物も2階から降りてきて心配そうに様子を窺っている。
「とにかく、法的に強制力がありますから、お願いしますよ!」
菅原は、困ったように黙っている妻に最後通牒を突きつけた。
「わ、わかりました……」
その声を聞くと同時に、
「それではお邪魔いたします」
と菅原は頭を軽く下げ、後ろにいる捜査員に、
「よし入るぞ!」
と号令をかけた。それを合図に立ち尽くしている妻と息子を横目に軽く挨拶しながら、捜査員はドカドカと室内に獲物を求めて入りこんだ。
当然表向きは「飲酒運転」の証拠集めである以上、居間や台所など酒のありそうな場所を探すが、目当ては、吉見の死亡の際に無くなったカメラや下足痕と一致するだろう靴の発見である。死体を掘る際に使ったと思われるスコップやランタンなどは既に押収されていたので、そちらが目当てのブツになっていた。勿論、今回の捜索で直接押収できるものは飲酒運転の証拠物件であるが、その際に、Nシステムの件と併せて、たまたま別の犯罪の証拠の一部が見つかったという流れで、もう一度本件事案での令状請求というのが、捜査本部が想定しているシナリオである。仮に今回の令状でそれらを押収すると、捜索令状で認められた範囲を超越するものと認定される可能性があるからだ。
おろおろと落ち着き無く、ガサ入れの様子を見ているだけの加奈子を横目に、交通課の捜査員と小村、黒須、北見方面本部の数人が日本酒やウイスキーの瓶や缶ビールの空き缶などを回収している。それに妻や息子が注意を払っている中、他の刑事達はカメラのありそうな場所や下駄箱などをチェックしていた。家の中は捜索を許可されているものの、飲酒運転に関係する証拠の押収を前提にしている以上、かなりグレーゾーンの捜査である。素人相手とは言え、余り目立って「荒らす」と後からやっかいなことになる可能性もある。北川にはやり手弁護士もついているからだ。




