鳴動46
吉村からの連絡を受けた遠軽署の捜査本部は、午前8時前にはにわかに忙しくなって、てんてこ舞い状況に陥っていた。実質的な捜査責任者である倉野がまだ北見から来ておらず、おそらくそのまま北見に留まって捜査指揮を執ることになるため、この時点で、捜査本部が立ち上がる前と同様、沢井課長が取り仕切っていた。残っている遠軽署の少ないメンバーで北見方面本部と北見署交通課との連絡・調整をしなくてはならないので、対応に追われていたのだ。刑事課のみならず、警務課の職員まで応援に借り出された。ファックスや電話が鳴り響く室内で、午後からのシフトだったものの、急遽呼び出された西田は、沢井課長とこれからの捜査の大まかな流れについて、話し合っていた。
これから当然行われる予定のガサ入れは、表向きは人身事故と酒気帯び運転での逮捕のため、交通課が行うことになるが、当然捜査本部の捜査員も同行することになる。調整については比留間管理官がしてくれるだろうが、最終的に話を詰めるためには、倉野が直接交通課の課長とコンタクトしておく必要があると思われた。既に交通課は、北川の自宅についての捜索令状を釧路地裁北見支部に請求済みだった。
また取調べも、まずは交通課が主導して人身事故についての聴取が行われるが、検察官に逮捕から48時間以内に送致後、24時間以内に釧路地裁北見支部の裁判官に勾留請求がなされ、裁判官に10日間の勾留が認められた段階で、徐々にこちらの捜査員によるモノに切り替わっていくことになるだろう。勿論ガサ入れで事件に関係する証拠物件が押さえられれば、本件事案としてその時点で再逮捕請求することが出来るようにになる。別件での勾留期間を活かして、出来るだけ長く取り調べをするために、本件逮捕を別件での勾留が切れる直前まで我慢するか、本件での逮捕に即切り替えるかは、その時々の条件によるが、本件事案での逮捕となれば、北川の身柄は遠軽の捜査本部に移すことになる。
「家はともかく、伊坂組の方もガサ入れするんですか?」
沢井が思案顔で西田に問う。
「倉野さんはどう言ってるんですか?」
「倉野さんも迷ってるみたいだな」
「まあそうでしょうね。そっちもガサ入れするとなると、多少大掛かりにもなりますし、あっちにも顧問弁護士が居るでしょうから、会社重役の飲酒事故で、勤務先の会社にガサ入れとなると、結構面倒なことになるかもしれません」
「そうなんだよなあ。でも会社にも何かあるかもしれないし」
「後、例の失踪事件ってのもありますよね。それは確実に会社ごと関わっている可能性もありますから」
「そこまで踏み込めたら最高だけどな。ただ、その時にも国会議員と道議会議員が圧力かけて来たとなると、今回も頭が痛いところだろう」
「いざ動き出したら動き出したで、先が思いやられるってのも皮肉なもんです」
西田は首をすくめて言った。ただ、暗中模索の状態から光明が差してきたのは間違いない。彼の口調は至って明るいものだった。




