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鳴動45

 それからは10分程度で、北見署の交通課の警官と救急車が到着。被害児童はそのまま救急車で病院に直行したため、交通課は逮捕された北川の供述や被害児童の友人達の目撃談等を元にブレーキ痕やはねた場所、車の当たったと思われる箇所などの写真を撮りながら実況見分していた。機捜隊の二人も逮捕時の状況などについて証言していた。そしてそれが終わると、二人は車内に戻って一服し始めた。一方捜査本部組の二人は、北川の車の中をそれとなく調べ始めていた。機捜隊の二人はそれを自分達の車の中から眺めているだけだった。これは仕事をしていないというより、「管轄外」の仕事にはタッチしないという「掟」を徹底しているだけのことである。彼らの今回の仕事は、基本的に北川を逮捕した時点で既に遂行済みだったからだ。


 交通課の警官も北川が捜査本部にマークされていたことは事前に周知されていたので、北川に見分に付き合わせている間も高木と吉村の動きは無視していた。現行犯で逮捕できたこともあり、北川の車両は警察が令状無しに押収することが可能なので、細かい捜査はこの時点では必要はなかったが、取り敢えず目ぼしいブツがあるかどうかだけは確認しておこうと思ったわけだ。トランクをまずチェックすると、中から「伊坂組」とマジックで柄の部分に書かれたスコップが視界に真っ先に入ってきた。その近くにはランタンが二つ、マグライトと呼ばれる強力懐中電灯があった。

「これなんか使ってる可能性高いですね」

吉村が手袋をはめながら高木にささやくと、

「ああ、シャベルについてる土の成分なんかも分析してみることになるだろう」

と答えた。

「本当に使ってたとすれば、捨てられなくて助かりました」

「いやあ本当。これらは直接的に犯罪と関わってるわけじゃなさそうだから、余り気にしなかったんじゃないかあ。あとフロアマットなんかにも土がついてるだろうからそれもやらんとな。署に持って行く時は、交通課の連中には靴にビニールかまして運転してもらわないと……」

そんな会話をしながら、トランクを閉めると、車内の捜索に移った。ダッシュボードの中なども軽く見てみたが、残念ながら、二人から見て特に関係ありそうなものは入っていなかった。

「後はフロアマットに何か残っているか」

10分ほどで調べ終えると、吉村は手袋を手袋を外しながら残念そうに言った。因みに北海道では、手袋をはめる、外すの代わりに、履く、脱ぐという表現がなされる。

「まだ車の段階だからな。後は北川の家のガサ入れと伊坂組のガサ入れだ」

高木がそう言うと、様子をうかがっていた志村が、

「どうだなんかあったか?」

と車から出て、歩み寄り喋りかけてきた。

「まあ一つか二つぐらいですわ。後は家と会社のガサ入れ次第かなと」

その高木の返答に、

「そうか。そいつは残念だな」

と一言言い残し、自分の捜査車両の方に戻った。

 それを見ていた吉村だが、志村が高木から離れるのを確認すると、先ほどの高木の発言に疑問を口にした。

「家で更に飲んだ疑いとかでの理由付けての家のガサ入れはともかく、酒気帯びで伊坂組の方もやれますかね?」

「帳場(捜査本部)は絶対やるよ。それぐらいやらんと」

ときっぱり言い切った。

 

 それから十分もすると、卒なく見分を終えた交通課警官により、北川がパトカーで北見署に連行された。そして高木と吉村は、後処理の為に残った警官と、北川の車の押収の際の注意事項について業務連絡をした。志村達は人身事故の件でのその後の証言関係の打ち合わせをしていた。全ての仕事が終わると、4人は北川の車と共に、交通課の職員が現場を離れるのを、妙な達成感と共に黙って見送った。

 最後まで付き合った機捜隊の志村達は、

「それじゃ俺らは先に帰るわ」

と言うと車に乗り、方面本部に戻るために車を発進させた。するとまだ車外に居た吉村と高木の前で不意に静かに止まった。助手席に座した志村はウインドウを下ろすと、

「ひとまず俺らの与えられた仕事は無事こなせた。後はあんたらの番だな。大体、人身事故と飲酒での逮捕なんて『綺麗』なモンは、別件関係じゃそうそうお目にかかれるようなことじゃない。そういう意味では運もある。その運を活かせよ! それじゃまた会う日まで! グッドラック!」

と右手を軽く上げながら格好良く言い残し、警察車両とは思えない乱暴な急発進をした。朝陽に照らされた二人の前から颯爽と遠ざかった志村達をじっと見送っていた高木は、

「あの人達の言うとおり、今度は俺達の出番だ。さあ、頑張らないとな!」

と、吉村の肩をポンポンと数回叩きながら気合を入れ直し、二人は自分の車に戻った。


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