鳴動42
「それは考えないようにしましょう。考えると疲れますから」
小村は苦笑した。
「それにしても、最近ずっと気になってるんだが、北川の名前はどっかで聞いたことがあるような気がするんだけど、それがいつか思い出せないんだよなあ……おまえらも聞いたことないか?」
「俺はそんなことはないですね。係長、前に竹下主任から聞いたんじゃないですか?」
「いや大場、竹下からは一切聞いてない。先日の捜査会議で初めて聞いたのは間違いない」
「じゃあ、なんかの勘違いですよ。そもそも気にする必要もないでしょう。聞いたことがあるってこと自体には意味ないですから」
大場は素っ気無く言った。
「そりゃそうなんだけどさあ……」
西田は部下に軽く扱われたような気がして、少々さびしい感覚を覚えたが、同時に目の前にやるべきことが転がっている以上、正論だと思い直し、もう気にすることをやめようと思った。そしてふと腕時計を見ると既に9時を過ぎていた。
「もうこんな時間か。さっさと帰って寝るか」
「そうした方がいいですよ係長。体力勝負でしょ。一番オッサンなんですから、倒れられたら困ります」
黒須が茶目っ気たっぷりに言った。
「いや、若者の仰る通りだな。老兵は死なず、ただ帰宅するのみだ」
西田は自虐も込めてそう返すと、
「それじゃあ若手の皆様、後はお任せいたします」
と仰々しく続け、捜査本部を後にした。




