鳴動40
「西田、北村聞こえるか?どうぞ」
「はいこちら西田北村組、聞こえます。どうぞ」
西田がラジオをミュートにしながら、北村が応答した。
「えーっと、北見の所轄のハコ(交番)に、伊坂組に勤務してるカミさん持ちの巡査がいるらしいんだが……」
課長の声を聞きつつ、
「あれ北見署には協力してもらわないようにしてもらったはずだが、緊急情報でも入ったのかな」
と北村からレシーバーを受け取りながら、疑問を口にした。しかし次に発せられた課長の言葉に西田の表情が変わった。
「時期は正確ではないが、1ヶ月程前、マル被(容疑者・被疑者)が、カミさんの同僚で男の職員に、『高そうなカメラがあるがいらないか?』と言っていたという話が入ってきた。いいニュースだから、こっちに戻ってくるより先に、早く教えてやろうと思ってな。どうぞ」
北村もそれを聞いて、ハンドルを持っていた両手を強く握り締めて、
「吉見のカメラですかね? 時期的にも合うし、そうだとしたら、少なくともその時点では、処分してなかったってことですか」
と言った。
「なんだよ、もっと早く話が出てればなあ。もう処分してしまったかもしれない」
「いや仕方ないですよ。北見署に大々的に応援頼んだのが最近ですから。それに直接の捜査員じゃなく、更にその奥さんだったら尚更でしょ……」
確かに北村の言い分の方が正しいだろうが、焦りの方が大きかった。課長の話はまだ続いていた。
「それでだが、当然出来るだけ早い段階でガサ入れしたい。カメラが押収出来ればそれだけでも現場に居た証拠になるだろうし、別件の他に勾留も延長できるからな。とにかく何時でも職質、ゲンタイ(現行犯逮捕)出来るようにマル張り(張り込み)は怠るなよ。どうぞ」
「はい了解しました」
北村は課長の発言が切れたのを確認して、無線のボタンを押しながら返答すると、
「カメラの窃盗の件自体でガサ入れできませんかね?」
と西田に聞いた。
「やれないこともないとは思うが、これだけの事案でやるとなると、確実にカメラを押さえられることが前提だろう。失敗した場合のその後のリスクがあるし、難しいと思う」
と答えた西田。
「じゃあ北川を別件で引っ張って、そこでカメラが出てきたら、一気に行けますかね?」
「そうなることを祈るのみだな」
西田は緩めていたネクタイを締め直しながら、背筋を伸ばした。




