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鳴動37

 7月8日、向坂と竹下は北見方面本部刑事部捜査一課の室内に居た。当初の予定では、タイヤ痕についての鑑定が科捜研から全部出た後動く予定だったが、北川についての捜査は早めに動いたほうが良いだろうと大友本部長から直接指示が出た。そのため、北川の情報が出た翌日には北見方面本部からの応援組を中心に身辺調査が開始されたのだ。一方竹下以外の遠軽署の捜査員は、一部の一致したタイヤ痕の車両所有者について捜査をすることになっていた。


 向坂と竹下が北見方面本部を訪問していた理由は、昨日の会議で出た機動捜査隊、通称「機捜」に捜査応援した件での打ち合わせのためだった。二人の横には比留間管理官も座っていた。それもあってか機捜の係長、つまり機捜隊長の横山は二人を快く迎えてくれた。


「比留間管理官、で具体的にうちはどうしたらいいんですかね? ただ単に北川の車をマークしていればいいんですか?」

横山は比留間に聞いた。

「現時点では基本的にはそれだ。ただ、もし犯罪案件で引っ張れるようなことに遭遇したら引っ張ってくれ」

「ということは別件でいいんですね?」

「構わない。そうしてくれ」

「ただ、本件事案と関係あるような行動の前に別件の犯罪があった場合、動かない方が良いケースもあるかと思いますが……」

「ちょっと意味がわからない」

「すいません。要は例えばですね、何か重要な証拠物件を廃棄しようとして、車で移動しているように見える場合とか、その前に過度なスピード違反等があった場合などです」

「ああ、そこら辺は担当刑事の勘にも左右されるからな。俺が一律にどうこう言っても仕方ないだろう。そこら辺は横山のところに任せるよ」

比留間はそう言うと、ソファーに深く座りなおした。

「また微罪逮捕か……」

竹下は本件のための別件微罪逮捕は、邪道が過ぎるとしてあまり賛同していない立場なので、内心うんざりしていたが、表面上はそれを出さない様に努めた。


「それで、向坂と竹下、北川について会った印象を横山に伝えておいてくれ。紙の情報だけじゃなく、実際に会った印象も大切だから。そのために呼んだわけだし」

比留間は再び上半身を前に起こすと、二人に発言を促した。

「そうですねえ。昨日捜査本部でも言いましたが、至って普通の50代の会社員、まあ正確に言うなら、会社役員ですが、という印象です。建設会社ですから、ヤクザ的な連中のいる場合もありますが、そういう感じはしませんでしたね。気の良い中年というイメージです。見ただけでは犯罪と関わりあるようには見えませんね」

向坂はそう横山に告げた。

「なるほど、そうか……。確かに、こっちの調べでも前歴というべきものはなかったな。何度かスピード違反での切符とか、一度だが酒気帯び運転もしているようだが」

横山は机に置いてあった北川についての調査書を読み直してそう言った。

「酒気帯び?」

比留間はさっきより前のめりになって聞きなおした。

「ええ、5年前でしたか、酒気帯びで点数くらってますね」

「酒気帯びじゃなくて、酒酔いなら別件逮捕としては丁度いいんだが……。どっちにしても一度だけしかないんじゃ、常習と違ってそうそう捕まえられんか」

そう言うと、残念そうに舌打ちした。

「管理官、とにかく刑事部長直々の要請ですから、我々も気合入れてマークさせて貰いますよ。ご心配なく」

と横山は言ったが、

「後は特に立ち寄った箇所の徹底した記録もお願いします」

と竹下が言うや否や、

「勿論わかってる。そこはうちの優秀な捜査員を信頼して欲しい」

と、少々不機嫌な口調で強く言った。

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