鳴動35
「違和感?具体的に何だ向坂?」
と倉野は聞いた。
「いや、本当に大したことはないんですよ。ただ、あの時点では、今回の遺体発見の件で屯田タイムスを購読している会社に、どれぐらいの人間が見ているか聞きに行っただけなのに、いきなり重役の専務が出て来たんでね。普通だったら平社員とは言わないまでも、課長だの部長だののレベルでしょう?一応デカイ会社なんですから」
「向坂、それはむしろ北川が今回の件と関わっていたとすれば、警察の様子をうかがったということで説明が付くかもしれないだろ?」
「事件主任官の仰る通り、そうかもしれませんし、その方が理屈としては合うかもしれません。しかし、私達が北川に聞き込んだ時点で思ったのは、あの会社の社長には以前嫌疑が掛けられたことがありまして・・・・・・」
と、以前竹下にも話したことがある、伊坂組の社長と訪ねてきた佐田の行方不明事件について語った。
それを聞いた倉野は、
「その事件との絡みで、捜査の理由はそれと別にせよ、また警察が来たので、取り敢えず様子を腹心の部下に探らせたのではないかと、当時そう考えたと言いたいんだな?」
と、そう向坂に確認した。
「そうです。実際に北村本人も、事実かどうかはともかく、社長に応対するように言われたとは言っていました」
「確かにその行方不明事件も気にならないとは言わないが、現実に今俺達が向き合ってる事件は、吉見の不審死と米田の殺人・死体遺棄事件なわけだから、まずはそっちから攻めていかないとな。現にその北村は、これによって事件の重要参考人レベルまで浮かび上がってきたんだから、それだけ考えてくれ。そっちの話は取り敢えず忘れてくれ」
倉野はそう言うと、事件の概要が書かれたホワイトボードの前に立った。
そして、北川友之の名を新たにボードに記入すると、
「それでだが、改めて聞くぞ向坂、竹下。会ってみて、北川という人間はどういう感じだった?」
と言った。
「まあ至って普通の50代前後の男でしたね。その時点では何か怪しいという印象は受けませんでした。それなりに落ち着いてました。」
と向坂は言った。竹下もそれに頷いた。
「今回の事件について、何か詳しく聞き出そうとか、警察の動きを探っているとか、そういうことはなかったか?」
倉野の問いに、
「言動にそういう点は見られなかったですが、失踪事件含め、実際にどうだったかまではわかりません。ある程度捜査の進展をこちらの動きから見極めるぐらいの思惑はあったという見方はできますし。どちらにせよ、対応した際にはかなり落ち着いていましたね。北川が実際に今回の事件に関与しているとすれば、あの程度で自分が割られる心配はないと自負してるんじゃないでしょうか?実際問題、タイヤ痕の一致に、Nシステムの情報を加味して初めてこれですから」
と竹下が答えた。
「わかった。その時には、何か北川が事件に関係しているようなフシは見られなかったと・・・・・・」
倉野はそう言いながら、再びFAXの紙面に目をやると、
「例の日だが、6月8日。北川の車はNシステムを午後7時に留辺蘂方向に通過し、9日の午前3時に留辺蘂方向から北見へ向かって抜けているようだな。他の日だが、5日は午後6時40分に留辺蘂方向、そして6日の午前4時に北見方向・・・・・・。7日の午後6時48分に留辺蘂方向、8日の午前3時48分に北見方向と通ってるのが確認されてる」
と言った。
「まともに働いていたら、これ寝てないですよね?」
と吉村が疑問を口にした。事実、捜査本部でも、「幽霊」の一連の動きは、一般的な会社員だとすればキツイスケジュールだと思っていたことは言うまでもない。
「そこら辺が気になるところだな。4日と6日は今わかる範囲では現場に向かっていないようだから、さすがに毎日というわけでもなかったと推測されるが、幽霊騒ぎが比較的頻繁に起こっていたことを考えると、ある程度の頻度では現場で作業していたと考えるべきだろう。そうなるとかなり睡眠不足だった可能性がある・・・・・・」
「北川の車を北川以外の人間が運転していた可能性はどうですかね?」
沢井が口を挟んだ。
「当然それについても考慮する必要はある。とにかく、北川がどういう勤務をしていたかってのを裏取りする必要がありそうだ。あと北川の家族構成なんかも調べた方が良いな。北川以外の人間が車を運転していたとなるとだ」
倉野はそう言うと、一度自分の席に着き、
「まあ他のタイヤ痕についての結果なんかもあるし、北見方面からの正式結果を受けてからじゃないと具体的には動けないが、北川を中心にして調べていくのがこれからのメインの捜査になるのは間違いない。そこを中心にして話を進めよう」
と、捜査員達を見回しながら言った。




