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鳴動29

「爆発事故?戦時中だから爆弾絡みかな?」

竹下が言った。

「当たらずとも遠からずだ。機雷だ・・・・・・。勿論当時はガキだったから機雷と爆弾の区別なんて付いてなかったけどさ」

大将はそう言い捨てると、自分で酒を猪口に注いだ。

「機雷かあ。まさに戦時中の話だな」

竹下は自分の猪口に視線を落としたまま言った

「西田さんも竹下さんも、湧別の機雷事故って聞いたこと無いかい?」

「いや、恥ずかしながら初めて聞いたなあ」

西田は首を捻ってそう返した。


※※※※※※※


 湧別機雷事故とは、1942年(昭和17年)、現湧別町、当時下湧別村において起きた、機雷の爆発による事故である。106名が即死、怪我が原因の死者も含めると、延べ112名が死亡、負傷者も同数の112名とい う、今では道民にもほとんど知られていないが、かなり大きな被害を引き起こした爆発事故である。


 経緯はその年の5月に、村内の海岸に相次いで2個の機雷が漂着したことに始まる。機雷がどの国のものかについては諸説あり、特定は出来ていな い。当然村は大騒ぎになり、村内の駐在所から管轄署の当時の遠軽警察署に連絡が入った。遠軽署ではこの連絡を受けて、安全な場所での処理、戦意高揚も兼ねて浜での爆破処理をすることを決定。


 そして運命の5月26日を迎える。2個の機雷は前日までに浜に並べられていた。爆破処理が行われることは周辺市町村にも伝わっており、千人以上の見物客が押しかける騒ぎとなった。

 しかし昼前に、誘爆の危険性を考慮し、1つの機雷をもう一方から離す作業をすることになった。だが皮肉なことに、その作業中に突然機雷が爆発。浜はバラバラになった遺体や鮮血で地獄絵図となったわけである。


 この事故により一般の見学者は勿論、作業に関わっていた、あるいは監視していた警防団(現在の消防団に該当)や遠軽警察署の職員も多数亡くなっている。陣頭指揮を取っていた当時の遠軽警察署長の千葉氏も殉職。行政面に置いても大きな被害となった。


 参考資料リンク

http://itokhotsk.iobb.net/ganbo/tyousi/tian/tian.htm

(第2節遠軽警察署 参照)

http://www.phoenix-c.or.jp/~ryousi/sub124.htm#2

(ページ下部 悲惨!機雷爆発事故 参照)

http://www.phoenix-c.or.jp/~ryousi/sub167.htm#6

(ページ下部 浮遊機雷爆発の大惨事 参照)


※※※※※※※


「地元の人じゃないと知らないのは仕方ないか・・・・・・。あん時は俺も学校の教師に連れられて見学に行ったんだが、危うく巻き込まれるところだった。で『助かった』と思って家に帰ったら、まさかオヤジが巻き込まれてるとは思わなかった。爆発だから遺体もまともなもんじゃなかったらしくてな・・・ ・・・。木っ端微塵になった人なんかは、警防団の法被の切れ端なんかしか残らなかったとか・・・・・・。うちのお袋も葬儀が終わってもしばらく呆然としてたわ・・・・・・。結局100人ぐらい亡くなってたから、友達の親兄弟にも多数犠牲者がでてな。そう言えば、確か刑事さん方の遠軽署の署長さんなんかも亡くなってるはずだべ?」

飲み干した猪口に再び酒を追加する大将。

「当時のうちの署長も巻き込まれてるんですか?」

竹下も驚いたようだ。酔いつぶれていた大場はともかく、いつの間にか小 村、吉村、澤田、黒須も自分達の話をやめて、こちらの話に耳を傾けてい た。酔って少々目つきが座り始めてはいたが、真剣な話になっていたのを察知したらしく、妙に神妙な顔つきになっていた。大将はそれに気付いたか、

「すっかり辛気くさい話になって悪かったな。お詫びにサービスで酒の肴とビール一本追加しよう。肴はイカのぽっぽ焼きでいいべか?」

と言うと、席を立って厨房に戻ろうとしたが、その前に

「おっと、忘れるところだった・・・・・・」

と呟き暖簾を下ろした。そして、その後は西田達と肴で一杯やりながら世間話をした。午後十時も過ぎると、足下がふらつく大場を吉村に任せて散会 し、西田も明日に備えて急ぎ足でアパートに戻った。

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