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鳴動28

今度は西田が猪口を振って大将に差し出し、そこに酒を注ぎ返しながら、

「大将は元々遠軽の人なの?」

と西田が聞くと、

「いや生まれは遠軽らしいが育ったのは湧別だ。それでこの店の『湧泉』ってのは、俺の名前の泉と湧別の湧をくつけて、『泉が湧くように商売が繁盛する』って願いを込めて付けたんだ。あ、そんなに繁盛してないと思ってるんだべ? まあその通りだ。ははははは」

と言って豪快に笑ったが、すぐに真顔になって話を続けた。

「ただ、オヤジが戦時中に事故で死んだりして、尋常小学校の途中からお袋の実家がある遠軽に移ってきたんだ。オヤジとお袋はオヤジが遠軽で働いていた頃出会ったけど、それ以降の生活の大半は湧別だったんだがね。だから故郷に戻ったという方が正しいのかもしれん。オヤジの兄弟、まあ俺の伯父さん達は『こっちにいたら』と言ってくれたらしいがね。戦時中、戦後とお袋が頑張って育ててくれた。まあその伯父さん達や親族が漁師だったり、実家が農家だったりしたんで、食い物にはあんまり困らなかったが、実家には金もなかったから、ガキの頃は色々大変だった・・・・・・。まあ一番大変なのはお袋だったのは間違いないが……」

と、しみじみ大将は語った。実家とは言え、貧乏なところに「出戻り」の形で帰れば、子供ながら、当時は必要のない気苦労もしたのだろうと、西田は思いやった。

「事故ですか、そいつは大変だ。漁師なんかやってるとそういう大変な部分がありますよね」

竹下が言う。

「いや、うちの親父の実家は漁師一家だが、親父は漁師じゃないんだ。だから海難じゃないんだよ」

大将は否定した。言われてみれば、遠軽に海はないから、漁師なら遠軽にいたことなどはないだろう。

「戦時中だけど、交通事故?」

西田も予想が外れたので聞き返した。

「あの時代だもの、湧別に交通事故が起こるほど車なんて走ってねえべや。爆発だよ爆発事故!」

大将の口から出た言葉は、想定外の言葉だった。


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