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鳴動27

 しかし、さすがに時間も経ってそれなりに酒が入ってくると、徐々に捜査でのストレスについて愚痴も出てくるようになった。西田と北村の組、竹下以外は、相手が方面本部の「上」の刑事と組んでいるので、警察という典型的上意下達の組織とは言え、アットホームな要素もある遠軽署の刑事同士よりギスギスした関係性になるのは仕方ない。まして殺人事件の捜査であるから、方面本部組は緊張感も当然普段より高い。また、捜査が思うように進まない部分も多いので、そういう意味での焦燥感もある。西田も、

「気持ちはわかるが我慢してくれ」

と言わざるを得なかった。方面本部応援組でありながら、「下」の立場で西田と組んでいる北村も不満はあるのだろうが、さすがに相棒の西田が目の前にいる以上、文句を言える環境にはなかったようで、その点も西田は少々気の毒に思った。竹下は唯一他所轄署からの応援である向坂と組んでいたが、特に不満はないと語った。向坂の経験を聞いて勉強になることの方が多いようだ。

 そのままグダグダ皆で言い合っていると午後9時近くになり、北見に帰宅する必要のある北村は、西田におごって貰った礼を言うと店を出た。酒に弱い大場は既に酔いつぶれ気味であり、明日の捜査のことも考え、10時には散会しないといけないと西田は思い始めていた。


 一方、店も常連が続々と帰宅し、7人以外の客がいなくなった。大将も料理を造る頻度が減り暇になったせいか、愚痴の言い合いが終わってから部下同士のたわいもない話に移り、それに適当に相づちを打っている西田に話しかけてきた。

「係長の西田さん、遠軽にも慣れたかい?」

「おかげさんでかなり馴れましたよ。結婚してからしばらく振りの独身貴族気分を味わってます」

「単身赴任なのかい、そりゃ色々大変だべさ。特に食事なんかはさ。うちは野菜なんかの料理も結構あるから、うちに来て食べたら栄養バランスもとれるよ」

大将のセールストークの上手さに

「今日はうまいもんを食べさせてもらったので、今度から行きつけにさせてもらいますよ」

と返す西田。そして、

「ああ、それから今回の事件では、大将のところから出た情報で結構助かってますよ。あれがなかったら、捜査もここまで来てないはず」

と付け加えた。

「そうかい? だったらいいんだけどね。話をチラッと横から聞いている分には、今回は殺人事件だから捜査も大変みたいだな」

と大将は言った。

「まあ、自分も刑事人生でこれまで4回、今回で5回しか殺人の捜査経験ないんでわかったようなことは言いたくはないが、すぐに解決するものはするけど、一度ドツボの嵌るとなかなか抜け出せないんですわ。で今回がそのドツボになるかもしれない・・・・・・」

「ふーん。俺は料理人だから刑事の苦労はわかんねえんで、何にも気の利いたことは言えねえな・・・・・・」

大将はそう言うと、頭のねじりはちまきを取ってカウンターに置きながら、カウンターの椅子を引き出して座った。

「ところで、大将はこの店出して長いんですかね?」

西田の正面で、黙って会話を聞いていた竹下が頃合いを計ったように、話に割って入ってきた。

「主任の竹下さんだっけ?そうだな、昭和41年にこの店出したから、ええっと・・・・・・」

「昭和41年は1966年ですから、今年で28年ですね」

頭の回転の速い竹下が助け船を出した。

「おお、そうか、再来年でもう30年か。あっという間だったような長かったような」

感慨深げに大将は言った。そして、

「中学出てから網走の小料理屋で10年修行して、そこから佐呂間の旅館の板場に入って金を貯め、ようやく一国一城の主になれた。小さい店だが俺にとっては人生そのものだ。わかるべや? 俺の気持ちが刑事さんにも」

と言いながら、大将はカウンターにあった日本酒の瓶を取ると、

「当然俺の奢りだから飲んでくれ」

と言って卓上の西田と竹下の猪口にトクトクと注いだ。西田と竹下は大将に向かってそれぞれ軽く礼をすると一気にそれを飲み干した。

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