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鳴動26

 普段、西田が奢る時は自分の行きつけの焼き鳥屋に連れて行くのだが、この日は吉村のたっての希望で、彼が事件について2つのヒントを得てきた、例の大将がやっている居酒屋に出かけることになった。ただ、北村は車で北見から通ってきているため、彼だけは飲めないのが気の毒だ。吉村の先導で一行は店に徒歩で向かうと、町の小さな歓楽街ではなくちょっと外れた場所にあった。遠軽に来て3ヶ月程度の西田にとっては、馴染みのない場所なのも仕方なかった。大場と黒須は一緒に来たことが何度かあるらしい。


「いらっしゃい!おっ、よっちゃん大王に大馬鹿に黒べえじゃねえか。ここんとこ来なかったけど、珍しく捜査で忙しかったみたいだな。あはははは」

「小料理居酒屋 湧泉」と記された暖簾をくぐると、刈り込まれた頭にねじりはちまきをした50代半ばぐらいに見える、それでいながら風体に似合わない鼻筋の通った端正な顔立ちをした男性の、威勢の良い声と笑い声が響いた。3人がそれぞれこの店では「よっちゃん大王、大馬鹿、黒べえ」と呼ばれていることを知って、竹下が笑いをこらえている。

「大将ご無沙汰。冗談抜きで色々忙しくてさあ。今日は、噂の西田係長が奢ってくれるって言うんで、ストレス解消にみんな連れてきたから、美味いもん食わせてあげてよ」

吉村が笑顔で大将に返した。

「噂の新任上司の奢りかい? そりゃ良かったなよっちゃん。美味いもんなら任せとけ! さあさあ、そこに座って!」

言われるままに隅の二卓に席をとって座ると、西田は店内を見回した。かなり年季の入った店のようで、壁などは油のシミで薄茶色になっていたが、それ以外は小綺麗にしているのが窺え、悪い感じはしなかった。壁にかかっているお品書きを見る限り、かなりリーズナブルな店のようで、自分を含め総勢8名の食事代について財布の中身の心配をする必要はなさそうだ。


「大将、今日のお奨めは?」

吉村が「取り敢えず」で出されたビールを口にしながら言った。

「そうだなあ・・・・・・、さっき佐呂間にいる従兄弟から送ってきた北海シマエビの刺身なんかどうだべ?」

「北海シマエビって言ったら、根室の方の野付半島じゃないんですか?」

竹下がやんわりと疑問を呈したが、西田も同じ疑問を持っていた。

「あんまり有名じゃないんだけど、サロマ湖でも7月から8月まで漁してるんだよ。野付産に負けないぐらい美味い。その上うちは従兄弟が漁師してるもんで、普通なら浜茹でしてる奴を鮮度の良いまま生で持ってきてもらってるから、特においしいよ!」

サロマ湖でも北海シマエビが獲れるということは、西田も初めて知ったことだった。実際出された刺身は、以前食べた野付半島のそれに負けない味だった。その後も続々と大将自慢の海の幸、山の幸の料理が出され、酒以上に料理に舌鼓を打つ8人。飲めない北村も十分満足しているようで西田も助かった。

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