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鳴動24

「そうですね。うまく何か引っかかっているかもしれません。後はその車のタイヤ痕が一致すればかなり確率は高いはずです」

と西田は言った。

「タイヤを替えられていたらダメだが、そこまで頭が回っているかは疑問だ。うまくいけば最後までたどり着けるかもしれんぞ」

倉野は二人を交互に見ながら喋った。そして、

「問題は、記事を見たことと関係あるかだな」

と続けた。

「そこはどうでしょう。記事を見た人物と一致する可能性は普通にあると思いますよ。ローラー作戦では、今のところこれという人物はピックアップできてませんが、もしNシステムでそれと被れば、まさに状況証拠としては堅くなる。作戦の一環でタイヤ痕を採取してる対象が幾つもありますから、Nシステムで割り出してからそれを調べるより先に、既にチェック済みの可能性もありますし。どちらにしても、『何故遺体を回収しようとしたか』の動機については、後付でいいんじゃないでしょうか? 可能性としては記事が発端であると見るのが一番筋が通りますが、同時に現状最も納得が行く動機であるという『だけ』のことでもありますから」

と、沢井課長が「だけ」を強調して言うと、

「うむ、とにもかくにも、今はNシステムに引っかかってくれているかどうかが重要なわけだ」

と事件主任官は返した。


 これ以降の捜査方針について一通りの会話を終えると、倉野は西田に、今日は取り敢えずこのまま捜査会議までの時間、本部で時間を潰しながら残っていて構わないと告げた。西田は自分の席に戻り、奥田から借りた冊子をパラパラとめくって確認すると、コピー機に掛けた。そして、階下の警務課に行き、封筒を貰って奥田の住所をメモを見ながら記入した。原本をそこに入れると郵送してくれるように頼んで、待たせていた北村と遅い昼食に出かけた。


 昼食から戻ると西田は、冊子のコピーを今度は念入りに眺め始めた。それを見ていた北村が、

「係長、裏はいつ取りますか?」

と質問してきた。

「うーん、ここまでちゃんとした冊子がある慰霊式までやったんだから、遺骨採集を大掛かりにやったということにウソはないだろ。奥田にも聞いたし、更に裏取りする必要はないと思う」

とだけ言った。

「それもそうですね。時間の無駄ですか」

と北村は言った。

「正直言うとだな、昭和52年だろ。ここに載ってるのは、当時の町長さんとか議長さんとかだから、年齢的に見て死んでる可能性も高いと考えてるんだ。そうなると北村の言うとおり、時間の無駄ってこと。他の国鉄職員なんかは、連絡先をいちいち調べてると時間掛かりそうだし」

西田はそう言ってコピーをめくろうとしたが、ふと指を止めて、

「昭和52年・・・・・・」

と呟いた。

「昭和52年がどうかしましたか? 奥田さんが言ってた遺骨採集と慰霊式の年ですよね?」

西田の呟きに様子をうかがっていた北村が、間を置いてから言った。

「ああ、あれだあれ! 墓標、墓標、生田原の墓標だ。そうか、あれだったのか!」

北村の問いにも答えず5秒ほど黙っていた西田だったが、突然一拍すると声を張り上げた。

「な、なんなんですか、ボヒョウってのは?」

北村が怪しむように聞いてきたが、

「説明すると面倒だぞ」

と冗談で睨み付けるように言う西田。が、すぐに遠軽署独自の「幽霊」の追跡捜索の際に、たまたま見つけた慰霊碑であり墓標が、おそらくこの慰霊式で出来たものであるという話をしてやると納得したようだ。


「係長自身が、この話を知る前に実際に証拠を見つけていたってことになりますね」

「そうそう。デジャブみたいなもんだったんだなあれは」

事件に直接関係しているわけでもないことだが、合点がいったというか、腑に落ちたというか、何故か清々しい気持ちに西田はなっていた。捜査が思うように進んでいない上に、打開できるかと思った新情報も期待を裏切ったにも関わらず、それ以上にこれまでの捜査で得た話がつながったことが彼にとっては喜びだったのだろう。一通り「墓標」や遠軽署単独捜索時の逸話について話し終えると、再び西田はコピーをじっくり見返した。この時点で既に「どうでもよくなった」はずの資料ではあったが、何故かじっくり見入ってしまったのは、単に他の捜査員達が帰還するまでの単なる暇つぶしに過ぎなかったのか、そうではなかったのか・・・・・・。


 やがて午後5時過ぎになると、捜査員達が続々と本部に戻ってきた。どの捜査員達も顔に疲労と焦りが見えた。誰も上手く行っていない様子がありありと見えた。午後6時過ぎに捜査会議が始まり、本日の捜査報告を一組ずつしていくが、芳しい成果を挙げた捜査コンビは一組も居なかった。それを受けて、倉野事件主任官はローラー作戦があと数日で終わるため、残りを全力で当たることを指示し、加えてNシステムの試験運用による、吉見の遺体発見日時も含む通過車両のデータがあったという新しい捜査情報を説明した。これには他の捜査員達もちょっと色めき立った。

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