表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/827

鳴動22

正直、事件にはおそらく関係ないだろうことではあったが、刑事に成り立ての頃に、先輩刑事からこっぴどくたたき込まれた「相手が気になっていること、自分が気になっていることは、必ず抑えておく」というセオリーを、ここでも踏襲したまでの話だ。

「どれだい?」

奥田は西田から冊子を受け取ると、腕を伸ばして、遠目にするように名簿部分を確認した。

「うん、確かにいるな。中には俺がわかる人もいれば、わからない人もいるわ」

「わかる人というのは?」

「伊坂組ってところの社長とかはわかるよ」

「伊坂組ってのはあの伊坂組ですよね?」

北村が確認すると、

「そうだぁ。刑事さん達も知ってるべ?」

と答えた。伊坂組は北見近辺で有力な建設会社であることは、地元ではない西田でも知っていた。

「北見の有力企業ですから、俺でも知ってます。ただ、それにしても建設会社の伊坂組の関係者がなんで参加してたんですかね? まさか昔のトンネル建設にここが関わっていたとか?」

「いやあ、さすがにトンネルの建設をここがやってたとかそんなことはねえよ。俺が知る限りでしかないが、そんな古い会社じゃないはずだ。ただ、この井坂組は先代が始めた会社らしくて、元々は国鉄の保線なんかの下請けやら鉄道の施設補修なんかもやってたんだわ。俺も一緒に井坂の連中と仕事してたこともある。常紋あたりの保線も担当してたのは間違いない。そういう関係で来てたはずだ。今は保線関係はしてないと聞いてるよ。ゼネコンって言うんだべか? そういう風なのになってからは」

北村の質問に、奥田が苦笑しながら言った。

「会社や所属、肩書きが書いてない人は何者なんでしょうね」

西田はその部分に奥田が答えてくれなかったので、再度聞いてみた。

「うーん、西田さんには申し訳ないが、ちょっとその人達はわからないな・・・・・・。いやわからないというより、忘れたってのが正しいべか?」

奥田はそう言うと、冊子を西田の前に置いて戻した。

「20年以上前のことですから仕方ないな・・・・・・」

「二十年? ああもう二十年か・・・・・・。十年一昔って言うから二昔になっちまうな。でもよく憶えてないってのは、年数の問題ってより年の問題かな・・・・・・。最近色々物忘れが激しくてな。本当に年だけは取りたくないもんだ。二人はまだなんだかんだ言って若いから、俺の言ってることがわからんべや?」

西田は聞こえるように言ったつもりはなかったが、皮肉にも耳の方は全く衰えている様子もなく、奥田にはしっかり聞こえていたようだ。思わず恐縮して、肯定も否定もせず、

「まあ・・・・・・」

と誤魔化した。


 それ以降は特にその場で聞くべきことが思い浮かばなかったので、しばらく奥田の世間話や国鉄勤務時代の昔話を適当にあしらいながらも、なんとなく1時間近く付き合ってしまった西田と北村であった。ただ、最後はまたしても「奥方」の助け船により、なんとか署へ戻る切欠を掴んだのだった。帰り際に、

「この資料は署でコピーを取って後から郵送させていただきますから、住所教えて貰えますかね?」

と西田が言うと、

「特にいらんからやるぞ」

と奥田は言ったが、

「いやそういうわけにはいきませんので」

と丁重に断った。

「だったら折角だから、郵便なんか使わないでまた持ってきてくれや」

と豪快に笑って言ったが、さすがにそこは住所を聞き出し、奥田の家を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ