鳴動21
恐縮しながら座布団に座ると、奥田はちょっとした世間話を始めた。如何にも田舎の人の良い、話し好きな老人というイメージのままの彼の話を、西田と北村は適当に相づちを打ちながら聞いていた。本題に入るように促すことも出来ただろうが、人の良さにある意味「やられた」からとも言えるだろう。そんな状態で10分ほど話を聞きながら、飲み食いしていると、
「あんた、無駄話ばかりしてると刑事さん達も困るでしょうが」
とこれまた人の良さそうな妻が声を掛けてきた。台所でさっきからチラチラこちらを見ていたのは、これを言うタイミングを計っていたのだろう。
「おお、すっかり忘れてたなあ。悪い悪い」
と笑いながら、畳から冊子のようなものを取り上げると西田の前に置いた。その「冊子」はいわゆる式典の「プログラム」のようなものに見えた。そこに出席者などの名簿も載っているようだ。
「これですか・・・・・・」
西田はさっとめくって確認した後、北村に手渡して彼にも確認させた。それをじっと見ていた奥田は、
「それにしても、遠軽から北見や訓子府までやってきて色々調べてるなんて、あの清がなんか事件に関わってるのかい?」
と西田に聞いた。
「ええ、まあ・・・・・・」
と一瞬言葉を濁した西田であったが、
「ただ、奥田さんのおかげで、田中さんは事件にはほぼ無関係だと思います」
と続けた。本来なら、未解決の事件で関係者以外にここまで言う必要はなかったのだろう。しかし田中の友人である奥田にここまで協力してもらった以上、安心させてやるのも一つのやり方として正しいはずと考えていた故の言動だった。
「そりゃそうだべや、刑事さん。だってあいつのことは国鉄の時代から知ってるが、何の事件だか知らねえけど、警察のお世話になるようなことをしでかす奴じゃないよ。スピード違反だのでとっつかまったことはあるだろうけど」
奥田は最初真剣な表情をして訴えていたが、最後には多少ニヤニヤする余裕を見せた。
「ええ、確かに人の良さそうな方でした」
と西田が受け答えしながら、北村から再び手元に戻った冊子を眺めていると、町長の挨拶など割と大掛かりな慰霊式だったことが窺えた。
「これを見る限りは、かなりの人数が参加したみたいですね」
北村が口を開いた。
「うん、そうだあ。50人ぐらいは加わってたんじゃないか? 国鉄の常紋地区担当保線区の職員は勿論、鉄道管理局の上役やら運転所の運転士やらの一部、生田原なんかの有力者も参加してたからな」
奥田の言うとおり、出席者名簿には、それぞれの名前と役職や所属部署などが羅列してあった。そこに当時の生田原町長や議長なども載っているのである。
「国鉄や生田原町のお偉いさん以外にも参加者がいたみたいだなあ。他にも所属や肩書きが載ってない人もいますね」
西田はそこに載っている出席者の中に、「毛色の違う」人物が複数載っているのを見逃さなかった。




