鳴動20
北見の田中の家を出て、訓子府の奥田の家まで向かう間の三十分ほど、西田と北村の会話は、田中の潔白を確信せざるを得なかった割には案外弾んでいた。というより、そうした方が精神衛生上良いという暗黙の了解が、二人の間にあったからかもしれない。北村についてはわからないが、西田は自分自身が落胆しているというより、捜査本部長の倉野に期待感を与え、わざわざ担当を変更してもらったにも関わらず、こういう結果しか得られなかったことが申し訳ないという想いが強かった。
奥田の家の近くに来て、車をスローダウンさせながら周辺を見回していると、こちらの様子を確認しながら小さく手を振ってくる老人が見えた。乗っている車がパトカーではないので疑心暗鬼なのだろうが、田舎の住宅街を知らない二人組がうろちょろしているのを見て、件の人物だと推測したのだろう。勿論こちらもその老人が奥田だという保証はないのだが、こんなことをするのは奥田に違いないと言う感触があった。
「奥田さんですか?」
北村が車を止め、ウインドウを下ろして声を掛けると、
「あんたらが遠軽の刑事さん?」
と返してきた。
「そうです。先程は失礼しました。車どこに駐めれば良いですかね?」
と西田が言うと、
「ここでいいよ」
と家の前の割と広めの砂利が敷き詰められた場所を指した。言われるまま車を駐め、二人は奥田に挨拶すると、奥田は家に招き入れた。西田は玄関先で、名前が書いてある紙を受け取り、そのまま「退散」するつもりでいたのでやや途惑ったが、余り強く断るのも悪いと考え、玄関で待ちかまえていた妻に会釈すると、そのまま上がることにした。
「狭いし、大したもてなしは出来ないけど、まあ車の中より多少はくつろげるべ」
と通された部屋は、田舎の一軒家にありがちなかなり広い居間で、十分立派な造りだった。視線を机にやると、既にお茶とお茶菓子に漬け物まで用意してあったのには少々驚いた。田中の家で出された菓子よりバラエティに富んでいたのは、田中の場合は突然の訪問だったこともあるが、「招かれざる客」であったのに対し、こちらは完全に「お客さん」として扱ってくれているという差もあったかもしれない。




