鳴動17
「そんな人達の中で知り合ったのが松重さんの父親で、先代の調査会の会長さん達だったわけなのさぁ。それ以来俺も、幽霊が怖いってだけじゃ、死んだ人達が浮かばれないように思えてね、調査会の会員として色々やってきて今に至るんだわ。ただ、調査会は基本的に留辺蘂から北見ぐらいの間の人が多くて、生田原とか山越えた方の人はほとんど居なくてね。先代の時代からそっちの方の遺骨採集は会としてはほぼやってないってのは本当の話。まあ生田原側の人達が独自にやったという話は聞いたことがあるんだけども」
その時、北村が会話の間を縫っておかきを食べた音が、案外部屋に響き、申し訳なさそうな顔をしたが、老人は構わず話を続けた。
「で、昭和52年だったかな、国鉄の職員で常紋トンネル周辺で働いたり、運転士やってよく通ってた連中やらOBやらが集まって、生田原側で遺骨の収集しようって話が持ち上がったんだわ。おれも調査会に籍は置いていたが、そっちは確かにやってなかったから昔の同僚と『参加してみるべさ』ってなことになって。俺等は日曜だから休みとかってことは決まってないから、それぞれ都合の良い日に勝手に集まって骨拾ったり、遺品みたいなものを集めたりしたんだ。雪が完全に融けた6月ぐらいから9月ぐらいまでやったかなあ。一通り集めた後は、慰霊碑建てて骨を集めた上で、生田原のお寺の住職呼んで慰霊してもらった。そういうことだから、『やらなくて良いんじゃないか』って会長さんに話を聞いたときにアドバイスっていうか言ったんだ。わかってくれるべか、刑事さん」
ここまでの話を聞くと田中の話はでたらめではなく、実際にあったことのように思えた。筋も通っている。
「そうですか」
と一言発すると、西田はやっと出されたおかきに手を付け、その噛み応えを一噛み一噛み味わう。いや、味わうというより、事前に想定したことがひっくり返されたわけで、実際には余り味を感じている余裕はなかった。パリパリと噛みしめながら、次の一言を探していた。北村も田中の話に疑う余地はないと感じているのだろう、取っていたメモ帳は既にボールペンと共に机に置かれたままだった。
「田中さん、その話を証明できる人は他にいますか?」
ようやくすぐに聞いて当たり前の言葉が口をついた。
「うちの娘婿が当時国鉄で俺の後輩」
「残念ながら親族は証人とは言えませんね」
西田が田中の発言を切って、そこはきっぱり言うと田中は、
「仕方ない。じゃあ満に聞いてもらうしかない」
と言った。
「満というのは?」
「俺の同僚で、一緒に遺骨採集に参加してた奥田満っていう奴だよ」
「わかりました。その人の連絡先を教えて貰えますか」
「ああ、それはいいけど、今家にいるべか・・・・・・」
田中は席を立つと、数分してからメモ書きを持って部屋に戻ってきた。
「これで」
田中からメモを受け取った西田は、住所の他に電話番号が書いてあるのを見るとすぐに携帯を取り出した。
それを見た北村は、
「ここで電話するんですか?」
と耳元でヒソヒソと喋りかけてきた。
確かに相手の目の前で確認するのは、一般的には非常識とも思われたが、一瞬でも相手に口裏合わせされる隙を与えるわけにもいかないと考えていたからだ。




