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鳴動14

「ええ、実際問題、調べてみないとよくわかりませんから。田中さんが事件に関わっているかどうか、まだ何か決まったわけじゃないです。何度も言いますが、こちらとしても松重さんに連絡していただいて助かりましたよ。よく話してくださいました」

「そう言っていただけると、多少は胸のつかえも下ります」

「いえいえ、心中察します」

西田は一言だけ返した。いや、それしか言う言葉を持たなかったという方が正確だったろう。そして会話を終え受話器を静かに置くと、一変したように北村に大声で、

「北村、予定変更だ。事件主任官に許可を貰う!」

と力強く言った。


 それからすぐに倉野事件主任官に西田が許可を貰いに行くと、彼は椅子から立ちあがり、

「おお、そうか。それは面白い情報だな」

と最近見なかった笑顔で応対した。

「というわけで、申し訳ないですが、こちらの聞き込みの方は後回しにさせて貰います」

と西田が言うと、

「いや、こっちで処理するから、君たちはその件に専念してくれ。捜査も正直行き詰まってる部分がある。期待している頑張ってくれ」

と言った。

「それは助かります。後のことはよろしく御願いします」

西田は一礼するや否や、駆け出さんばかりの勢いで部屋を出て、北村と合流すると車に飛び乗った。


「松重さんはなんて言ったんですか?」

エンジンを掛けながら北村が聞いてきた。

北村には松重から電話が来たこと以外は詳細を言わずに予定変更を告げたので、何が起こったのか聞くのは当然のことだ。

「古参メンバーの田中が、『生田原の調査は不要』と松重に言ったらしい」

「え、そうなんですか?一昨日調べた時には、特に不審な点は見当たらなかったんですけどね」

北村は首を軽く捻ると、アクセルを軽く踏んで車を発進させた。

事実、2日前に田中に電話で確認したとき、松重が以前言ったとおり、彼が古くからの調査会のメンバーであることが語られただけで、特に怪しむべき点は見当たらなかった。まさに状況は急転したと言って良い。事態の進展と対照的な静かな遠軽市街を抜けながら、車はペースアップした。

「西田さん、事前にアポ取らないでいいんですか?」

国道242号に出た頃北村が言った。

「むしろ取らない方が良いだろ。いきなり会いに行くというと、場合によっては相手に勘づかれる可能性がある。それに田中は既に退職して日中も家に居るだろうから」

「なるほど、それもそうですね・・・・・・。しかし田中が実際に事件に関わっているんでしょうか」

「断定はそりゃまだ早い。ただ、調査が行われなければ、事件発覚の可能性はほぼ0なんだからそれに越したことはない。そういう方向に持っていけば、犯人や事件に関わった人間としては助かるのも事実だ」

「調査不要という話はいつ言ったんですか、田中は?」

「記事が出る前、古参メンバーに連絡した時に言われたということだ」

「ああ、そう言えば記事前に連絡したとか言う話を聞き込みの時にしてましたね。思い出しました。そうなると、田中が調査会の生田原調査を阻止できなかったので、田中自身か誰かはわかりませんが、遺体を回収する必要性が生じたという筋書きが考えられますか。だけど、だとすれば、困ったことに屯田タイムスの記事は関係なかったことになってしまいますが」

「いや、それは違う。購読リストのローラー作戦が無駄になることは間違いないけど、そもそも屯田タイムスの件で、調査会の調査が今回の件のキーポイントになったというストーリーを思い浮かべたのだから、記事の存在を知ったことは重要な発見だった。これでもし田中が事件関係者であると、一気に事件の展望が開けるはずだ」

峠道を登る覆面パトカーのエンジン音は心なしかいつもより軽く2人には聞こえた。


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