鳴動13
次の日、倉野と槇田署長に許可を貰い、聞き込みローラー作戦から2日離れ、会員リストを電話を掛けたりして洗っていた西田と北村であったが、特に怪しい人物をリストアップすることは出来なかった。やはり記事が出てから応募してきた人間がいないという現実は厳しいものがあったようだ。さすがにこれ以上こだわっていると、他の捜査員達にも迷惑を掛けることになるので、切り上げて翌日から残り僅かになった購読者の洗い出しに戻ることにした2人。朝方遠軽署を出発しようと、席を立ちかけた西田に、直前に掛かってきた電話を受けていた黒須が声を掛けた。
「西田さん、留辺蘂の松重さんという人からお電話です。松重と言えばわかるということですが?」
「あ?おう、松重さんね。こっちで電話取るから回してくれ」
そう言うと自分の机の受話器を取った。
「お電話代わりました。西田です」
「松重です。先日はお世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ。で、何かありましたか?」
「ええ・・・・・・。実はですね、この前ちょっと言わなかったことがあったんですよ。でもやっぱり気になりましてね。お伝えした方が良いかと思いまして」
「ほう。で、具体的になんですか?」
「それは生田原側の調査の件なんですが・・・・・・。実はね、その件で気になることがあったんです」
「気になること?」
「そうです。この前お話した時に、古くからいる会員に記事が出る前に連絡したということを言った記憶があるんですが、憶えてますか?」
「はい、確かにそんな話がありました」
「で、調査会の歴史みたいな話になっちゃって言いそびれたんですが、その会員さんの中に、『今回の調査は不要じゃないか』という意見を言った人がいたんです」
「え?本当ですか?」
「勿論本当ですよ」
西田は
「おいおい、この前ちゃんと言ってくれ・・・・・・」
と言いたい気持ちをぐっと押し込めて、話を続ける。
「で、それは誰なんですか?」
ちょっとした沈黙があった後、少々早口で松重は、
「田中さんですよ」
と告げた。
「田中さんってのは・・・・・・。ちょっと待ってください」
そう言うと、西田は机の上にあったリストを手に取って、さっと目を通した後、
「貰ったリストにある田中清さんのことでいいですね?」
と言った。
「はい、清さんですね」
「となると・・・・・・、その時の状況について、もうちょっと詳しく教えて貰えますか?」
「その時とは?」
「松重さんが田中さんに話した時のことですよ」
「だから、私が松重さんに『今度は生田原側を詳しく調べて遺骨採集することにしたんですが』と話すと、田中さんは、『生田原側は昔、常紋トンネル調査会以外で詳しく調べたことがあるから、今更やっても出てこないんじゃないかな』と言ってきたんですよ」
「なるほど。田中さんは『以前調査したことがある』と仰ったんですか」
「ええ」
「そうですか。わかりました。確かに、今回の件では先日お話しした通り、あなた方の調査に危機感を感じた犯人が、色々やったのではないかという疑念を私たちも持ってますから、そういう意味では、松重さんの話は大変興味深いんですよ。話していただいて大変助かりました」
西田がそう言うと、松重は、
「これって田中さんが何か事件に関与してるってことになるんですか?」
と恐る恐る聞いてきた。
「それはまだわかりません。ただ詳しく調べてみる必要はあります」
「うーん、困りましたね・・・・・・」
松重は自分のせいで田中に迷惑が掛かるのは困ると感じたのだろう。
「松重さんにはできるだけ迷惑は掛からないようにしますが、そうは言っても、田中さんに話を聞くときに、松重さんとの話はどうしても出ますから、そこは申し訳ないですけど我慢していただくしかないですね」
と西田は率直に語った。実際そこは誤魔化しようがない。
「まあ仕方ないですかね。人の命が関わった事件ですから、あのまま黙っておくことは出来なかったし。それに田中さんはそういう人じゃないと思いますから・・・・・・」
西田に返す松重の口調は重く、自分自身を納得させようと努めているように聞こえた。




